第370話 圧倒的とは/結衣

伝説級の魔導機が動いた。あまりの速さに完全に反応することができなかった。頭を掴まれ、ぐいと相手の方へと引き寄せられる。信じられない力である。エルヴァラ改はパワータイプの魔導機ではないけど、それでもほとんどの相手を凌駕する力を持っている。それがまるで抵抗できないくらいに圧倒されていた。


「手を放しなさい!」


突きの間合いではないので、相手の足を狙ってレイピアを打ち付けるように攻撃する。細身の剣は、突き用の武器で刃が無いが、しならせ素早く打てば鞭のように攻撃できる。これで並みの魔導機なら十分破壊できる威力を持っているが、この伝説級には通用しなかった。


「どうした? 君の実力はその程度か? だとすればとても残念だ。もう壊してもいいかな?」


「勝手な事を言わないで!!」


一気に集中する。肌がピクピクと反応して体中から何かが吹き出すような解放感を感じる。眉間が熱くなり、熱くなった箇所にさらに意識を集中させて、エルヴァラ改に戦う意志を伝えた。私は最大の戦闘態勢に入った。


「ほう~ 良いルーディア集中だ。それならもう少し遊んでもいいかもね」


私は相手の言葉を無視する。エルヴァラ改の頭部を掴んでいる伝説級の手をつかむと、強引に引きはがした。


「キャハハハッ! いいよ! いいよ! ほら、それからどうするんだ!?」


「突き刺す!!」


バックステップで伝説級との間合いを取ると、レイピアで渾身の突きをお見舞いする。イメージでは伝説級の喉元にレイピアが突き刺さるのを思い描いたが、そうはならなかった。


「なっ!!」


伝説級は超速のレイピアの突きを簡単に右手でつかんで防いだ。


「いや、なかなか良い、良い。しかし、威力スピードは申し分ないけど、攻撃の軌道が素直すぎるから読まれて、ほら。こうやって簡単に防がれてしまう。相手に読まれない攻撃を心掛けないといけないな」


「くっ! ならば!!」


レイピアを引き、伝説級の手から取り戻すと、二撃目の突きを放った。レイピアのしなりを利用した突きは、蛇のようにうねり、変則的な動きで伝説級に襲い掛かる。


しかし、その攻撃も簡単に防がれてしまった。虫でも払うように軽い動作で叩き落される。


「ダメダメダメ! 動きは良くなったけど、その分、威力もスピードも落ちたじゃないか。これじゃ、小動物も殺せない」


信じられない。このエルヴァラ改の攻撃がまったく通用しないなんて……。


「君にはがっかりさせられたよ。残念だけど、やる気が失せた。もう壊させてもらうよ」


そう言うと、伝説級はゆっくり近づいて来た。相手から伝わってくる気迫のせいだろうか、何とも言えない気配を感じて私は動けなくなっていた。


「キャハハッ!! さあ、血を噴き出して死んでくれ。死にざまくらいは僕を楽しませてくれよ」


伝説級の手が私がいるコックピットに伸びてくる……ダメだ。このままではやられる……そう思った瞬間、伝説級の後ろから声がかかった。


「やめろ、ペルネシッサ。どうやらそいつらは敵じゃないようだ」


蘇ったもう一機の伝説級の魔導機、それからそう言葉が発せられたようだ。


「どうしてだアスタロト? 敵じゃないとはどういうことだ? もう僕たちの味方など存在しないだろ? だったらこいつらは敵じゃないか! 敵は殺す。僕はコイツを殺すよ!!」


ペルネシッサと呼ばれた者の魔導機はそう言って拳を振りかぶる。


「やめろと言ってるんだ!! 俺の言葉が信じられないのかペルネシッサ!」


その言葉でペルネシッサの動きがピタリと止まった。

「わかったよ。そんな大声だすなよアスタロト。悪かったよ」


このやり取りでわかったことがある。圧倒的な力を示したペルネシッサより、後ろの魔導機のアスタロトと呼ばれた人物の方が圧倒的に立場が上だということだ。ペルネシッサの怯えた感じをみると、単純な立場の上下関係というより、あきらかに力で圧倒していることがうかがい知れる。


私が手も足も出なかったペルネシッサを力で怯えさす存在。それは神か化け物か……。

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