第365話 壁と罠
ミライでギリギリ通れる狭い通路を進んで、研究施設の最下層を目指して進んでいた。ここまで、ガーディアンや巨獣兵器の妨害もなく順調であったが、次の階層で大きな障害が現れる。
「こりゃ、ここを通るのは無理そうだな」
ジャンがそう判断したのは、進行ルートが分厚そうな扉で塞がれていたからだ。
「フェリ、開けられない?」
こんな時、頼りになるのは古代文明の技術に精通している仲間である。フェリに扉の開閉ができないか尋ねた。
「これは扉のように見えますが、実際は開閉できない構造になっている、ただの壁ですね」
「扉に見えるただの壁って、これを作った人は相当性格が悪いですわね」
リンネカルロにそう言われるくらいだから、かなりやばい奴が作ったのだろう。
「でも、ルートはあっているんでしょう? ここを通れないと困るし、どうにかしないといけないんじゃない?」
「地図ではここを通れるようになっていますので、壁の向こうにルートが続いている可能性は高いです」
「じゃあ、ちょっと強引だけど、壁を壊して進もうか」
「ダメですね。計算しましたが、あの壁を破壊するほどの攻撃をおこなうと、かなりの高確率でこのフロアーは崩落します。おそらくそれも計算して設置されているもののようです」
「性根が曲がってるうえに頭もいいようだな。フェリ、迂回するルートはないのか?」
「いくつか候補があります。一番近くのルートならそれほどの回り道にはならないと思います」
「だったら一番遠回りのルートをナビしてくれ。そっちに周ろう」
一番遠いルート? 俺はジャンの言っていることが理解できず、聞き直すように確認した。
「ジャン。近くのルートならそれほど遠回りにならないのに、どうしてわざわざ一番遠回りのルートを選択するんだ?」
「よく考えろ。どうして相手はここを壁で塞いだと思うんだ。ここじゃない別のルートを通って欲しいと考えてるからだろ? 普通に考えれば、その別のルートには罠がとあると考えるのが必然だろ。相手さんは、ここから近いルートを迂回すると想定しているだろうから、遠回りのルートの方が安全だと思わねえか?」
「あっ、なるほど……ジャンは凄いな。どこからそんな発想が浮かんでくるんだよ」
「まあ、遠回りのルートにも罠がある可能性もあるけどな、少しでも安全なルートを選択するのがいいだろう」
俺だけではなく、ジャンの考えにはあのフェリでさえ感心している。
「ジャンには、人の思考を読む天性の才があるようですね。私やラフシャルは心理学は苦手でしたから、素直に感心します」
フェリに絶賛されても、ジャンは気をよくするでもなくひょうひょうとしている。たぶん、天性の才とかはどうでもいいと思ってるんだろうな。
ジャンの案通り、俺たちは遠回りのルートを通って最下層を目指した。フェリが念入りに思案して、登ったり下ったりとかなり入り組んだルートを選択した。ここまで複雑な進み方は相手も想定してないだろう。妨害や罠もなく、順調に進んでいた。
しかし、そんな順調も長くは続かなかった。すぐに想定外の状況が現れる。
「このまま最下層までと順調にいけばラッキーだと思っていたが、そんなに甘くはないか」
ジャンはそう言うが、何もないことはないだろうと判断していたのか、それほど落胆している様子はない。
「ルートが水没してますね。ミライは水中を進めませんけど、どうしますか?」
清音がジャンの判断を聞く。
大きなフロアーの一部分が池のように水たまりになっていて、下層への道を塞いでいる。フガクやムサシと違って、ライドホバーのミライには水中を進む能力はないそうで、このままだと先に進むことができない。
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