第363話 目覚め
想像以上に広い研究施設に、最下層に到着するより先にエミッツたちの治療が完了しそうだった。
「そろそろエミッツが目覚める時間だな。全て終わった後に治療が完了する予定だったからな、ちょっと扱いに困るな」
腕時計を見ながらジャンは少し困った表情でそう言う。エミッツが目覚めるくらいでどうしてそんな顔をするのか不思議に思い聞いた。
「どうしてだ? 別にエミッツが寝てても起きてても違いはないだろ?」
「バカかお前は。エミッツが敵国の人間だっていうのを忘れてるんじゃないのか? 今から俺たちは死んだ人間を蘇生するんだぞ。そんな技術があることがリュベル王国に知られたら、それが新たな火種になる可能性だってあるんだぞ」
「そんなの大丈夫だって、黙っててって言えばエミッツは秘密にしてくれるよ」
「おいおい、エミッツはエリート軍人だってことも忘れてるのか? 軍人が軍に対する報告義務を怠るわけないだろ」
「軍人だろうがなんだろうが、エミッツは良い奴だから、約束したら守ってくれると思うけど」
「ほんとうにお人好しな奴だな。まあ、そこまで言うなら俺はもう何も言わねえけど、ある程度のトラブルは覚悟しておけよ」
ジャンは心配性だな。たぶん大丈夫だと思うぞ。
医療カプセルのパネルが治療の終了を知らせる。フェリの疑似体がカプセルに近づいて操作する。俺も近づこうとしたけど、渚とリンネカルロに止められた。
「勇太はそれ以上近づいたらダメよ! ていうより、部屋からでなさい」
「そうですわよ。エミッツは何も着ていないから男子は退室するですわ」
そうだった。女性を捨てたと言っても、体が変化しているわけではない。ここは二人の言うように部屋から退室した方がいいだろう。
部屋から出てしらばくすると、入ってよいとお許しがでた。中に入ると、寝間着のような服を着たエミッツが椅子に座っていた。
「自分の采配で多くの部下を死なせてしまったのに、おめおめと生き残ってしまいました」
何かの気持ちを抑え込むように悲痛な表情でそう言う。エミッツらしい言葉だが、そんな気持ちでいたらこの先辛いだろう。俺はフォローするようにこう声を掛けた。
「エミッツの采配が悪かったわけじゃないだろ。色んな状況が悪い方向に進んだだけだ」
「そうね。エミッツが一人で全ての責任を負う必要はないわよ」
渚も俺の言葉に続ける。リンネカルロは声はかけないまでも、エミッツの肩をポンと叩き何かを伝えた。
エミッツは何かを感じてくれたのか、表情を歪めてポロポロの泣き始めた。それは亡くなった部下に対する謝罪の涙なのか、俺たちの気遣いに対する涙なのかはわからなかったけど、泣き止んだ後の彼女はエリート軍人の凛々しい姿に戻っていた。
さらにもう一人の生存者の治療も完了した。その人物も女性だったことから、またしても部屋から追い出される。
生存者の女性ライダーはミルティー・カザフという人で、中級ライダーで部隊長だったそうだ。
「エミッツ隊長! ご無事でなによりです!」
「ミルティー中尉も無事でよかったです」
エミッツとミルティーは敬礼してお互いの無事を喜び合う。自分以外は死んでしまったと思っていたようで、ミルティーが生きていてエミッツは本当に嬉しそうだ。
「すぐにでもリュベル軍の基地にでも送ってやりたいけど、まだ俺たちの用事が終わってねえんだ。悪いけどもう少し付き合ってもらうぞ」
ジャンは端的にエミッツたちに状況を伝える。それに対してエミッツも短く返事をした。
「もちろん異論はありません。助けて頂いたうえに、お心遣い感謝いたします」
さらに二人は手伝いを申し入れてくれた。これで見張りのローテ—が楽になりそうだ。
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