第358話 巣くうモノ

研究施設はミライで移動しても問題ないほど巨大であった。大きな通路を進んで、最下層へと向かっていた。


「ちょっと待て、あれはなんだ?」


ジャンが何かに気が付いてミライを停止させる。見ると広いフロアーの中心の柱に、白い大きな繭のようなものが張り付いていた。


「昆虫の繭に似ていますけど、あのサイズの昆虫など存在しません。スキャンしましたが、私のデータベースにあるどのデータとも一致しない未知の物質です」


「フェリの知らないものなんて気味悪いな……」

俺の一万倍は物知りであるフェリが知らないものなんて、どんなものか想像もできない。そう考えると怖くなってきた。


「あのサイズの昆虫が、繭を破って出てくる姿を想像したらゾッとしたんだけど」

「ちょっと渚、変な想像しないで頂戴! 私も思い浮かべてしまったじゃないですの!」

普段は男勝りの勇ましさを見せる渚とリンネカルロだけど、こういう会話を聞くと、普通の女の子なんだと思い出す。


「とにかく、早くここを離れた方が良いのではないですか?」

清音の言葉通り、ここに留まるメリットはない。急いで気味が悪いこのエリアから抜けようとした。しかし、繭の横を抜けようとしたその時、ドドドッと重い衝撃を感じる。


「ぐわっ! なんだ! 何が起こった!」

「ミライの船体になにか絡んできています。かなりの力で、このままだと危険です」

「なっ! なんだと! ぜ、全員急いで出撃だ!! よくわからんけど、ミライを捻り潰される前に引きはがせ!」


俺と渚、清音、リンネカルロは急いで魔導機に乗り込む。そしてすぐに出撃した。


外からみて状況がわかった。ミライの船体に繭から伸びた白い糸のようなものが絡みついている。偶然そうなったわけはないだろう。あきらかに敵意を持っての攻撃に見えた。


「繭は生きてるのか!?」

「ウソ……あんなのと戦うの?!」

「か、勘弁して欲しいですわ……」

ウニョウニョと触手のように動く白い糸に、妙な不快感を感じる。渚やリンネカルロは気持ち悪すぎるのか声が上ずっていた。


「とりあえず白いのをどうにかするぞ!」


急がないとミライが潰される。気持ちを切り替えてそう指示をした。まずは繭から伸びている白い糸を切り離そうと、剣で斬りつけようとした。しかし、思ったより丈夫で、一撃では切断することはできない。何度も斬りつけてようやく切断に成功した。


しかし、すぐに繭から新しい糸が伸びてくる。それも数が増えて厄介になった。増えた白い糸を四人総出で撃退するが、さらに数を増やして襲い掛かってくる。


「ダメだ! 繭をどうにかしないときりがない!」


「私が四元素砲で屠りますわ!」

リンネカルロはそう言うと浮かび上がる。しかし、ジャンがそれを制止する。


「ダメだ! リンネカルロ! こんなところで四元素砲なんて使ったら、遺跡が崩れて生き埋めになるかもしれねえぞ!」


確かにその危険性はあった。研究施設が広いと言っても、四元素砲をぶっ放すのに十分な広さとは言えない。


「繭は俺がどうにかする。リンネカルロたちは白い糸からミライを守ってくれ」

なにか具体的な対策が思いついたわけではないが、アルレオ弐の火力ならどうにかなると直感的に思った。


繭に近づくと、危険を察知したのか白い糸が何本も襲い掛かって来た。絡まれると厄介だと思い、剣でさばきながら動いて避ける。アルレオ弐の機動力は、白い糸の攻撃速度を上回る。すべてを避けきり、繭へと接近できた。


射程に入ると、魔光弾を打ち込んだ。無数の光の玉が高速で放たれ、繭に直撃する。魔導機の装甲を貫通する威力の光弾が全て命中しても、繭は破壊される様子はなかった。


魔光弾の攻撃で終わるとは思っていなかったが、ここまで効果が無いと少し焦る。

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