第318話 三日目の戦い/ジャン

友軍の支援は全て上手くいったようだ。特にファルマたちは未知の巨大魔導機を撃破して、戦場の優位を決定付けてくれたそうだ。アムリア連邦の指揮官からかなり長い礼文のメッセージが送られてきた。


二日目も無難に乗り切り、この防衛戦にも光明が見え始めた。だが、ヴァルキア帝国とリュベル王国の連合軍の方が戦力が上である事実はかわらない。勇太たちが戻ってくればその心配もなくなるが、早くても三、四日はまだかかるだろう。


もう少し様子見で力を温存してくれればいいが……そう願っていたが、三日目の敵軍の動きはこれまでと違っていた。国境を越えてくる兵力がこれまでと桁違いであった。


「やべえな……」

敵の動きを見て、思わずそう呟いてしまう。


「ジャン、敵さんも本気を出してきたようだね。どうする、今日は他の戦場を支援をしている余裕はないかもしれないよ」


俺たちの持ち場の陣の防衛だけならそれほど心配はしていなかったが、アリュナの言うように友軍のフォローをすることを考えたらかなり厳しい。


「チッ……それでも見捨てるわけにはいかないだろう。アリュナ、エミナ、ユキハ、アーサーは、練習生の一個中隊を連れて左翼方面に支援に向かってくれ。清音、ブリュンヒルデ、トリスも一個中隊を連れて右翼方面の支援を頼む。残りの練習生部隊とナナミ、ロルゴ、ファルマはこの陣の防衛だ。厳しい戦いになると思うが、後、三日もすりゃ勇太たちが戻ってくる。それまでの辛抱だ、みんな頑張ってくれ」


昨日と同じ組み合わせにしたのは、連携のとりやすさを考慮したからだ。昨日と同じなら相性などの心配をする必要はないだろう。


「そんなにここを離れて大丈夫かい!?」

「大丈夫じゃねえけど、なんとかするしかねえだろ。それでも他の戦場の方が心配なくらいだ」

「確かにそうだね。わかった。左翼は私たちに任せな」

そう言うと、アリュナたちは左翼方面へと向かった。


「それでは私たちは右翼の方へ向かいます」

清音たちもそう言うと移動を開始する。二組の部隊が移動すると、ここの戦力がスカスカなのが一目瞭然となる。これでなんとか持ちこたえないといけない。


「ペフー、悪いがロルゴと一緒に前衛の中心になってくれ。重装魔導機部隊で敵を止めるぞ。ファルマはサトルと一緒にアロー部隊を率いて後方支援、ナナミは遊撃隊として全体の支援を頼む」


すでにルーディア値50万越えのナナミの戦闘力は群を抜いていた。だから一か所で戦うより、戦況に応じて臨機応変に動いてもらった方がいいだろう。しかし、残念なのがすでにヴァジュラでは成長したナナミのポテンシャルを100%発揮できなくなっていることである。落ち着いて余裕ができたらヴァジュラを改造してナナミ専用機を作る案はでているが今はそれも間に合わない。



国境を越えてきた敵軍がこの陣になだれ込んできた。ロルゴのガネーシャとペフーのギガンテスが中心となった重装魔導機部隊に敵の前衛部隊が突撃する。激しい金属が接触する音が響いて、敵の魔導機が後ろに跳ね返される。


かなり練習生部隊の重装魔導機はよく訓練されていて、強固な防壁を形成している。だが、敵の魔導機は次々と押し寄せてきていた。その勢いを止める為にファルマとサトルのアロー部隊が一斉にアローを放つ。30機ほどから放たれたアローは敵部隊に次々と突き刺さる。ファルマやサトルはもちろんだが、練習生のアロー部隊の全ての魔導機は魔導撃による強化アローが使用できる。重装魔導機も一撃で倒すことができる威力に、アロー受けた敵機は地に崩れる。


「ムサシ、他ライドキャリアはサラマンダー主砲で敵艦と後方の魔導機群に向けて攻撃を開始しろ」


敵の数が多いことで、こちらは狙う的に事欠かない。乱戦中の味方を避けて、射程ギリギリの敵軍に向けて砲撃を指示する。


砲撃を始めると敵艦から反撃がきた。激しい打ち合いになるが、こちらの方は火力があったのか、三隻の敵艦を沈め、残りの敵艦を後ろに引かせた。


艦砲射撃での打ち合いはこちらに分があったが、魔導機戦は押され始めてきた。味方の重装魔導機部隊の一角が崩れたのだ。

「どうしたロルゴ、何があった!?」

「ジャン……怖い敵がきた……」


ロルゴがいつもよりさらにテンションの低い口調でそう伝えてきた。見ると、味方の重装魔導機を簡単に斬り伏せる、他の敵とはあきらかに違うオーラーを纏った機体が目に入った。


「あれか……」

ロルゴが感じたように、俺も少なからず恐怖を感じる。このままでは危険だと、本能がそう告げた。

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