第250話 絶対中立対象
アムリアへと向かう道中、高い山脈の麓で休息をとっていた。清音の姿が見えないので、いつものところだと思い足を運ぶ。
「また、ここに来ていたのか」
オヤジを安置している医務室。そこには清音の姿があった。
「勇太もでしょう。本当に弟子二人がこんなのじゃ、父上も心配でしょうがないでしょう」
「俺はお前を探しに来ただけだ。どうだ、いっちょ立ち合いでも」
「そうね。そうしている方が気が晴れるかしれませんね」
そう決まって二人で道場へと移動しようとした時、艦内放送でブリュンヒルデに呼ばれた。
「清音師匠。勇太さん。すぐにブリッジに来てください」
その放送を聞いて、清音と顔を見合わせる。
「どうしたのかしら?」
「何かあったようだな。とにかく行ってみよう」
ブリッジに行くと、すぐに状況がわかった。大型スクリーンに映し出されているのは十数機の魔導機に追われているライドホバーの姿であった。
「攻撃されているのか?」
俺が聞くと、ブリュンヒルデが答えた。
「はい。コアの一部が破壊されているようで速度が出なくて振り切れないみたいです。このままでは捕まるのは時間の問題ですね」
追われているからといって、追っている方が悪人とは言い切れない。手助けするにも理由がないのでどうすることもできないと思っていたのだけど、清音は違う見解を示した。
「ボディーの光十字のマークからして、ライドホバーはアリス大修道院のものですね」
「そうです。それで困ってまして……どうしますか、このまま見捨てるわけにはいきませんけど……」
「アリス大修道院ってなんだ?」
無知な俺は聞きなれない単語を尋ねた。
「アリス大修道院は、あのラドルカンパニーと同じで【絶対中立対象】に指定されている組織です。大陸の全ての国家はアリス大修道院に武力行使することを禁じられています」
「だとすると……」
「はい。あの攻撃している魔導機隊は完全な違法行為を犯しています」
「なら話は早い。出撃してあのライドホバーを助けるぞ」
「わかりました。私とトリスも準備します」
ブリュンヒルデが清音の名を言わなかったのは、菊一文字の修理がまだ終わってないのを考慮してのことである。
「いや、俺一人で十分だ。清音、エクスカリバーを借りるぞ」
「勇太。すみません、あなたにばかり負担をかけて」
「善悪がはっきりしているからわかりやすい。鍛錬のつもりで行ってくるよ」
そういうと格納庫に走った。
エクスカリバーに乗り込むと、すぐに出撃して追われるライドホバーの方へと向かった。
敵の数は十二機、ライドホバーを取り囲むように展開している。エクスカリバーが近づくと、こちらに向かって数機の敵魔導機が向かってきた。
敵機は問答無用で攻撃を仕掛けてくる。警告もなく、攻撃してくることからやましいことをしている自覚はあるようだ。そうなると遠慮することはない。俺は一番最初に向かってきた敵機を斬り伏せた。
さらに加速して敵機に近づき、二機の敵魔導機の首を跳ねる。
仲間を倒されて怒ったのか動揺したのか、敵魔導機たちはライドホバーの攻撃を一時停止して、エクスカリバーに殺到してくる。しかし、俺にとっては近づく手間が省けてその方が都合が良い。
まずは正面からきた敵機を剣を横に振り腰から下を分断する。そのまま返す刀で左の敵の喉元を突き刺す。さらに敵は三機同時の攻撃を繰り出してくるが、どれも動きが遅い。キレもなく敵機のライダーの質はあまり良いとは言えないようだ。俺は余裕の動きで全ての攻撃を避け、剣一振りの衝撃波で三機同時に破壊した。
この攻撃には敵も力量の差を痛感したのかもしれない。残りの敵機は、エクスカリバーに攻撃するのを停止して、逃げるように撤退していった。
追ってまで殲滅する理由もないので、攻撃されていたライドホバーに近づき、安否を確認する。
「そこのライドホバー。大丈夫か?」
外部出力音でそう言う。すぐに返事が返ってきた。
「お助け頂き、ありがとうございまうす。こちらはアリス大修道院所属の艦艇です。あなたにアリス様の加護がありますようにお祈りします」
声の主は若い女性のようだった。透き通るように美しい声で、自然とその容姿を想像してしまった。
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