第249話 牽制/渚

ちょっとした歓迎会と言われて、私も誘われた。ユキハ同様にお酒を勧められたが、丁重にお断りする。


「なんだよ。この世界じゃ十六で成人だよ。地球じゃダメかもしれないけど、ここでは合法なんだから付き合いなよ」

どうしても私にお酒を飲ませたいのかアリュナがそう言ってきた。

「あら、勇太もお酒は好きじゃないようですけど、頑張って付き合ってくださるわよ」


リンネカルロが嫌味な感じでそう言ってきた。あの勇太がお酒を飲んでいる姿を想像するだけでちょっと可笑しくなってくる。昔から勇太はサイダーとか甘い炭酸飲料を好む。お酒なんて絶対嫌いなのは想像できるな。


「それじゃ、一杯だけいただきます」

私の言葉にアリュナやユキハが喜び始めた。お酒を飲む人はどうして他人に飲ませたがるのだろうか……ちょっとその思考は理解できないけど、これだけ喜んでくれるなら少しお酒飲むくらいなら悪くないと思ってしまった。


私に注がれたお酒は透明の液体で、日本酒に似ている。だけど香りはすごくフルーティーで果実のジュースのように感じた。


「それはラーゴの果実の汁を絞って発酵させて作られたお酒で、お酒の苦手な人でもそれなら飲めるってものだよ。勇太も私たちに付き合う時は、だいたいそれを飲んでるわよ」


ラーゴの果実って、勇太がオークションで買われた時の対価じゃなかったっけ? 自分と交換された果実のお酒を勇太はどんな気持ちで飲んでたのかな。まあ、あの勇太のことだ。自分がラーゴの果実で売られたってことも忘れてるような気がする。


ラーゴの果実酒はびっくりするほど飲みやすい。お酒って言われないとわからないほどで、これならいくらでも飲めそうだ。


「どうだい、渚。美味しいかい?」

「美味しいです。飲みやすくて、ジュースみたい」

「だろ〜 ほら、どんどん飲みなよ」


そう言ってアリュナは飲み干していないグラスにさらにラーゴの果実酒を注いでくる。


アリュナやユキハ、それにリンネカルロがニコニコと不気味な笑顔で私を見ているのが気になる。何がそんなに楽しいのだろうか……。そう思っていると、自分のペースで一人お酒を飲んでいたエミナが呆れた感じでこう言ってきた。


「ちょっと、あなたたち、いい加減にしなさい。渚。気をつけなさいよ。そのお酒の別名はレディーキラー。飲みやすいだけで、アルコール濃度はエールやジムより強いんだから。気がつかないうちにフラフラに酔っちゃうわよ」


エミナの言葉を聞いた瞬間、グワっと頭が回るよな感覚が襲ってきた。身体中が熱くなり、ちょっと思考が滞る。



それからどれくらい時間が経過したか曖昧だ。エミナの注意も聞かず、アリュナたちは私にレディーキラーを勧めてきた。そして彼女たちの思惑通りか、よい感じに酔いが回っていた。周りは大いに盛り上がっていて、いつの間にか人数も増えて宴会状態である。


「ちょっと渚! 地球で生活していた時の勇太の話をしなさいよ!」

お酒のせいか、ちょっと怒ったようにリンネカルロが尋ねてくる。

「リンネカルロ。あなたは私が嫌いなの? そんなに怒られるようなことしたかな?!」

酔いで思考があやふやなこともあり、それほど面識のないリンネカルロに強く尋ねていた。


「別に嫌いとか考えたこともないわですわ。ただ、私は勇太の昔話を聞いただけですわよ」


あやふやな思考でも、リンネカルロの気持ちを理解した。彼女は勇太が好きなのだ。それで幼馴染みの私をよく思ってないのかもしれない。それに気がつくと、ちょっと胸がキリキリと痛み出す。

「いいよ。勇太の話をしてあげる」

意地悪な気持ちになってしまった私はそう言って話し始めた。


「私と勇太は、親同士が幼馴染みの関係もあって、物心つく前からの付き合いなの。いつも一緒で、小さい頃は一緒にお風呂も入っていたのよ」


そして勇太の体の特徴なのどを自慢げに話すと、リンネカルロは表情を険しくして震えていた。完全に勝った。そう感じていたのだど……。


「ナナミも知ってる〜 勇太は背中にもアザがあるよね」


「ナナミちゃん……どしてそんなこと知ってるの?」

「だって、ナナミも勇太と一緒にお風呂入ったことあるから」


え、嘘でしょう…… さらにナナミちゃんは前は勇太と一緒に寝ていたそうで、体の温もりとか、寝ている時の癖とか話し始めた。いや、私、そんな癖知らないんですけど…… いくら小さいなナナミちゃんでも、私の知らない勇太の話をされると、なんとも言えない気分になる。

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