第232話 敗北の後/ユウト

この世界に来てから、どんな敵と戦っても負ける気がしなかった。それでも増長せず、自分を見失わないよう努力してきたつもりだった。だけど……今日、僕は完全なる敗北を味わった。


ロゼッタたちのおかげで生きて戦場から離脱することができた。しかし、自分が築き上げてきた何かが音を立てて崩れたような気がする。以前までの自分に、この世界にくる前の自分に戻ってしまいそうで恐怖を感じる。


自信がなく、人と話すのも怖かったあの頃……。誰からも認められず、いつも教室の隅でビクビクしながら学校生活を過ごしていた。心無いクラスメイトたちからは常に馬鹿にされ、執拗に嫌がらせを受けていた。


そんな最悪の生活が変化したのは、僕のクラスが乗っていた急行電車がこの世界に転移してきたあの日からだろう。クラスメイトたちのルーディア値に比べて、僕の数値は飛び抜けて良かった。それから地球での生活が嘘だったかのように、僕の周りの環境は激変した。


完全に自分の中に自信が生まれたのは、戦場でクラスメイトの一人と出会って戦った時からだろう。彼は地球では偉そうにしていて。暴力的に僕を抑圧していた。だから出会った戦場でもその関係性を求めてきて、戦う前から土下座して敗北を宣言しろと要求してきた。


そんな彼を僕は完膚なきまでに叩きのめした。戦いはまるで大人と子供のように圧倒的差で、最後には泣きながら命乞いをしていた。


自信を持つと余裕が生まれる。僕の性格も変わり、周りからは尊敬と憧れの目で見られるようになった。多くの友人ができ、慕ってくれる部下もできた。全てがうまくいっている。それが壊れるのが怖い……


「ユウト。それでこれからどうするつもりなんだ」


ボーッと考えていた僕に、エメシスが声をかけてくる。

「こちらの残存戦力はどれくらい残っているんだ?」

「半分くらいだ」


それを聞いて、一気に不安が押し寄せてきた。その戦力であの剣聖率いる剣豪団と戦えるのか……うっすら恐怖すら感じていた。だけど、その気持ちをグッと奥へ押し込める。昔の自分に戻るのは嫌だ。今の自分を維持しないと……。


「まだ、いける。僕たちはまだ戦える。アジュラの修理は終わったらもう一度やろう」

「フッ。やっぱりユウトならそう言うと思ったよ」

ロゼッタは嬉しそうに微笑む。彼女はまだ戦い足りなかったようだ。


「戦うのはいいが剣豪団は強い。さっきの戦いで雑魚そうな魔導機と一戦交えたが驚くほど強かった。あんなのがゴロゴロいると考えたら半分の戦力になった俺たちには辛いかもな」

「城塞都市モスピレイを攻めている部隊から少しこちらに戦力を送らせよう」

「そうだな、それもいいだろう。しかし、それともう一つ俺に秘策がある」

「秘策……どんな策だ?」

「今までの動きを見てると、剣豪団は一枚岩じゃないように思える。もしかしたらそこに付け入る隙があるかもしれない」

「一枚岩じゃない……あの剣聖が剣豪団を御しえてないと言うのか?」

「そうだ。ちょっと俺に任せてくれ、もしかしたら楽に剣豪団を倒せるかもしれない」


やはり、心のどこかで剣聖との再戦に不安のあった僕は、エメシスのその案に乗った。本当はもう一度真っ向から剣聖と戦うべきなのだろうけど。次、負けるようなことがあったら……そう考えるといつもの勇気が出てこなかった。


それからアジュラの修理は終わり、城塞都市モスピレイを攻めていた部隊からの援軍も到着した。エメシスの策も順調のようで、剣豪団との再戦の準備は整った。


「それでエメシス。君の策とやらはいつ発動するんだ」

「すぐにだ。戦いの前に勝負は決することになる」

「悪知恵の働くあなたの策なら、間違いないでしょうけど、どうして味方の私たちにも秘密にしなければいけないのかしら?」

ロゼッタの言うように、エメシスは策の詳細を僕たちにも説明してくれなかった。少しそれが気になったが、エメシスは僕は知らない方がいいとだけ言って、ただ不敵に笑った。

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