第221話 戦争の合間
城塞都市モスピレイの戦いの戦況は剣豪団の活躍もあり、三国同盟側が有利に進めていた。被害が拡大するばかりのエリシア帝国は、開戦から5時間後、全軍を自国領土へと撤退させた。
「初日はこちらの勝利のようですね」
清音の言葉にオヤジはこう返した。
「勝利には違いないが、やはり手応えがなさすぎる。スカルフィ。あれからターミハルの司令部からは連絡は来ていないのか?」
「司令部でも三傑の動きを捉えようと動いているようですが、今のところ何も分かっていないようです」
「そうか、ならば仕方ない。傭兵の俺たちにできるのは、ここを防衛することだけのようだな」
剣豪団は休息の為に城塞都市モスピレイ内へと移動した。体を休め、次の戦いに備えるのも重要である。
「勇太さん! 俺、最高スコアを更新しましたよ!」
ムサシの大浴場で、トリスが嬉しそうにそう言ってくる。
「そうか、幾つになったんだ?」
「15機です! 勇太さんはどうでした? ナマクラでは思うように戦えなかったでしょうけど」
「どうだろう、10機くらいかな」
「10機! あのナマクラで10機も撃墜できるなんて、やっぱり勇太さんはすげーですよ」
体を洗いながらトリスとそんな話をしていると、湯船につかりながらオヤジが声をかけてくる。
「トリス、撃墜数なんて気にしてるようではまだまだだぞ。いいか、戦いは内容が重要だ。その撃墜した15機を、どうやって倒したか言ってみろ」
そう言われたトリスは、少し考えてこう返事した。
「すみません、大先生。思い出せません」
「適当に戦ってるから思い出せないんだよ。相手が誰であろうと、自分の剣の一振りに魂を込めろ。倒した敵を経験として刻み込め。全ての戦いを無駄にするな」
「はっ、はい! ご指導ありがとうございます!」
トリスはオヤジの言葉に感動しているようだ。
「勇太はどうだ、ナマクラでは物足りなくなってきたんじゃないのか」
「いや、ナマクラでの戦いは鍛錬になってる。今までどれだけ力押しで戦ってきたか実感しているよ」
「そうか、勇太が望むなら新しい機体を購入しようと思ったが、今のままでも問題ないようだな」
「そうだな、鉄平以上の強敵と戦うならナマクラだとキツそうだけどな」
「鉄平以上の相手となるとエリシアにもそうはいない。まあ、三傑やトリプルハイランダー辺りが出てきたら、俺や清音に任せればいい」
「そうするよ。さすがにトリプルハイランダー相手だとしんどそうだ」
トリスは、オヤジと俺の会話を羨ましそうに聞いている。気になったので話を振った。
「どうしたトリス、そんな微妙な顔して」
「いや、正直羨ましいですよ。師弟で裸の付き合いなんて憧れますよ」
そう言うと、オヤジがとんでもないことを言い出した。
「ハハハッ。だったら別に清音と一緒に風呂に入ればいいだろ。師弟で裸の付き合い、結構じゃないか」
「きっ、清音師匠と一緒に! いや……大先生、さすがにそれは……」
「あいつも弟子に肌を見せるくらい気にしないと思うぞ。俺が許す。どんどんいってよし!」
「いや、オヤジが良くても清音は嫌がると思うけどな」
「なんだ、勇太。お前も姉弟で裸の付き合いしたいのか? だったらそれも許すぞ! ハハハッ──」
無茶苦茶なオヤジだな……そう思っていると、さらに無茶なことを言い出した。
「よし、ちょうど清音も風呂に入ってる時間だな。俺が行ってこっちに連れてきてやるよ」
そう言うと、そのまま女風呂の方へと向かった。本気で連れてくるのかと、俺とトリスがドキドキしながら待っていたのだが、帰ってきたのは胸から血を流したオヤジだけだった。
「いや〜 死ぬかと思った。清音からあれほどの殺気のこもった一撃を喰らったのは初めてだな」
どうやら怒った清音からキツイ一撃を受けたようだ。オヤジは豪快に笑いながら話をする。
「それにしても、我が娘ながら風呂場にも剣を持ち込むとは警戒心が強すぎるな。こりゃ、覗くだけでも命懸けになるぞ。お前たち、女の風呂を覗くのは許可するけど、命の保証はしないからな」
剣聖に死を思わせる一撃を放つ、そんな相手の逆鱗に触れるようなことをするわけなだろうと、その場にいた全員が思っただろう。
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