第170話 ラフシャルの目覚め/結衣

ブリュレ博士は部屋にあった光文字列のボードを何やら操作している。するとピピピッと周りの機械が反応をし始める。


「大賢者ラフシャルの目覚めの時です」


ブリュレ博士がそう言うと、プシューと白いモヤを吹き上げて、カプセルが開かれた。ピクッと、カプセルの中で横になっている人物が反応する。生きてる……本当に寝ているだけだったんだ。


大賢者ラフシャルは、カプセルの中からゆっくりと起き上がった。キョロキョロと周りを見渡し、私たちを見ると話しかけてきた。


「俺はどれくらい寝ていたのだ……」

「1万年ほどになります」


ブリュレ博士がそう伝える。

「お前は誰だ? いや、俺の封印を解いたと言うことはメシア一族の末裔だな」

「はい、名をブリュレと申します、大賢者ラフシャル様」

「ブリュレか、ご苦労だった。メシア一族には十分な褒美をやらなくてはな」

「いえ、そのようなお心使いは無用でございます。我々の悲願、ラフシャル様の復活が為されただけで十分です」

「ふっ、時が経っても変わらぬ忠義には感心する。ところで現世の情報知りたい、話を聞かせて貰えるか」

「もちろんでございます。ライドキャリアに部屋を用意いたしますので、そちらに向かいましょう」


大賢者ラフシャルを前にしてブリュレ博士の口調が明らかに変わった。どう言うことだろう、メシア一族っていったい……


「ブリュレ博士、あなたはここに大賢者ラフシャルが眠っていることを知っていたのですか?」

あまりに疑問に思ったので、博士本人にそう聞いた。


「もちろん、そうですよ、私たちメシア一族は封印の弱まる1万年の時をずっと待っていたのです。封印解除の手順も、ラフシャル様本人から伝え聞いていました」


「それじゃ、遺跡の調査ってのは……」

「それは方便です、真の目的は大賢者ラフシャル様の復活です」


ブリュレ博士の言葉に、メアリーが反応する。

「それは皇帝陛下のご意志なのですか、ブリュレ博士……」

「いえ、皇帝は知りませんよ。あくまでも遺跡の調査と思っています」


ブリュレ博士は皇帝陛下を呼び捨てにした……博士の主従の意思は大賢者ラフシャルにあることは明白だった。


「ブリュレ博士、皇帝陛下の意思で無いのなら、私たちはこれ以上、貴方に協力することはできません」

「皇帝の意思がそれほど重要ですか、メアリー」

「当たり前です! 私たちはエリシア帝国の軍人ですよ!」

「そもそも、そのエリシア帝国は大賢者ラフシャル様の意思で作られた国なのですけどね……」


「どっ、どう言う意味ですか……」


「エリシア帝国とは永遠の国のことかブリュレ」

その話を聞いていたラフシャルがそうブリュレ博士に問う。

「はい、ラフシャル様を復活させる為だけに作られた、永遠の国にございます」


「ふっ、メシア一族は全て俺の手順通りに動いてくれていたようだな」

「はい、ルーディアコア生成技術を根絶やしにし、長い年月をかけて魔導知識を封印してまいりました。現世では魔導機を一から作ることもできなくなっています」

「そうか、それは何よりだ。では、フェリ・ルーディアも見つかっているのだな」

「も……申し訳ありません……フェリ・ルーディアの所在だけは見つけることができず……」

「完璧にとはいかないか、まあ良い、詳しい話は後で聞こう」


エリシア帝国は永遠の国……話がどんどん分からない方向へと向かっている。


「ブリュレ博士! やはりそんな話は信用できません、貴方を反逆罪で拘束します!」

メアリーが剣を抜いてブリュレ博士にそう宣言する。


「私を拘束……貴方一人でですか?」


メアリーは護衛の兵に命じた。

「ブリュレ博士を拘束しなさい!」

しかし、護衛の兵は誰も動かなかった──

「何をしてるのですか! 上級ライダーの命令ですよ!」


「残念ですけど、護衛の兵たちは貴方の命令には従いませんよ」

「それはどういうことなの……」

「ここにいる兵は皆、メシア一族の配下ですから」

「まさか……帝国の正規兵が!」

「勘違いさせて悪かったですね、確かに皇帝は知らない事実ですが、エリシア帝国の真の支配者である、現メシア族、頭首、アムノ様のご意志ではあるのですよ」

「アムノ……まさかアムノ皇子……」

「そうです。それがどう言うことかお分かりよね」


「ブリュレ、面倒だ、その者は俺に従う気がないようだ、早々に片付けろ」

ラフシャルの命令はメアリーを殺せと言うものだった。ブリュレ博士は顔色一つ変えずにその命令に従った。


「兵よ、メアリーを斬り捨てなさい」

すぐに護衛の兵たちが動く、剣を抜いてメアリーに迫った。


「待ってください!!」


私は大声でそう叫んだ。兵たちはその叫びにも動きを止めることはなかった。しかし、別の人物からの声には素直に従う。

「殺すのは待て、ブリュレ、その者は誰だ」

「エリシア帝国の最上級ライダー、トリプルハイランダーの結衣にございます」

「トリプルハイランダーとはなんだ」

「ルーディア値3万台のライダーの総称です」

「たった3万で最上級とはどう言うことだ?」

「現世ではニトロルーディアや、ルーディア強化プログラムの技術もありませんので……」

「なんだと! まさかナチュラル数値が3万なのか!」

「はい、そうなります」

「ナチュラルで3万だとすればクラス5……いや、クラス4の可能性もありえるな……まさか、そいつもか?」

「彼女はダブルハイランダーです。ルーディア値2万台のライダーです」

「そうか、それは貴重な人材だな、殺すのは止めだ。おい、貴様、生かしてやるから俺に従うがいい」


メアリーは悔しそうな顔をしているが、それを拒否しなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る