第159話 共に戦う/渚
私が到着した頃にはすでに戦いは始まっていた。エモウ軍の方が圧倒的に少数で不利に見えるけど大丈夫だろうか。私も戦いに参加すべきなのかもしれないけど、今は勇太を探すことで頭がいっぱいになっていて、自然と戦場を見渡し白い魔導機を探していた。
広い戦場、一機の魔導機を探すのはかなり難しいと思っていた。だけど、私には彼のいる場所が朧げに見えた。視覚ではなく、感覚で彼を感じとった。
「あそこに勇太がいる……」
誰に伝えるわけもなく、私はそう呟いた。
戦場を走り、私は一直線で彼の元へ向かう。途中、ルジャ軍に行手を阻まれるが、攻撃をいなし、敵機を飛び越え、無我夢中で進んだ。
敵軍の真っ只中で彼は一人で戦っていた──大きな魔導機を相手に、その圧倒的な力を見せ付けている。不思議とルーディア値2と言われた勇太が、そこまでのことをしていても疑問に思わなかった。
私は勇太に攻撃しようとしていた敵機を投げ飛ばした。ようやくそこで私の存在に気がついた勇太がこう言ってきた。
「あれ、どうしてお前がここにいるんだ? それに腕も修理したようだけど、あまり時間も経ってないのに急いで直したのか?」
その言い回しに無性に腹が立った。私は勇太だって気がついているのに、この男ときたら微塵も私だって気がついてない。どれだけの時間、一緒に過ごしたと思ってるのよ、この鈍感男が──
こうなったら勇太が気がつくまで黙っててやる。私は返事もせずに敵機に攻撃を仕掛けた。
昔から一緒に遊び、悪戯し、怒られ、なにをするのも一緒だった。勇太のやろうとすることなんて考えなくてもわかる。その為か私たちの連携は完璧だった。もの凄い勢いで敵部隊を駆逐していく。
勇太の目的は敵のライドキャリアを破壊することだったようだ。敵部隊を倒すと、大きなライドキャリアの中へと侵入して内部からライドキャリアを停止させた。
目的を達成してライドキャリアから外に出ると、周辺の敵が襲いかかってきた。私たちはその敵を迎え撃つ。
それにしても、これだけ一緒に戦っても気がつかないものなんだろうか、やっぱり勇太の心の中の私の存在なんて小さなものなんだろう……そんなナーバスになった私の思考は、よくない想像を思い起こさせる──もし……もし、相手が白雪さんだったら勇太は気がついたんじゃないだろうか。私だから、好きでもなんでもないただの幼馴染だから気がつかないんじゃないのか。多分そうだ、私は勇太が大好きだけど、勇太には他に好きな人がいる……そうだよね、気がつくわけないよね……どんどん気持ちが落ち込んでいったその時、それを引き止めるような言葉が耳に届く。
「お前、渚か?」
勇太のその言葉を聞いた瞬間、涙が溢れてきた。嬉しかった、私に気がついてくれた。ただの幼馴染でも勇太の心の中には私がいる、それを確認できただけで胸が熱くなる。
だけど、そんな気持ちを悟られるのが嫌だったのか、私は嬉しい気持ちとは裏腹な行動にでた。
白い魔導機の頭部を、私のラスベラは引っ叩いていた。そして外部出力音で大声で叫ぶ。
「気がつくのが遅い! どれだけ鈍いのよバカ勇太! 幼馴染がこれだけ近い距離にいるのに、私がどんな気持ちで一緒に戦っていたかわかる!!! わっ、私は──」
そこで私の言葉は遮られる、白い魔導機がラスベラを抱きしめてきたからだ。いや、そうじゃないか……勇太が私を抱きしめてくれたのだ。そして勇太はこう言ってくれた。
「よかった、本当に渚だ。無事で良かった〜心配してたんだぞ渚……」
「ゆ……勇太……」
もうダメだ、涙が止まらなくなった……どうして好きでもない女の子を抱きしめたりするのよコイツは……勘違いするでしょうが……
「しかし、渚、積もる話は後だ。その前にこの戦いを終わらすぞ」
確かにここは戦場、悠長に再会を喜んでいる場合ではないけど、だったら抱きしめたりしないでよ、本当にデリカシーのない男だ。
「わっ、わかってるわよ、さっさと敵を倒しましょう」
強がりのようにそう言うのが精一杯だった。私は泣いているのを悟られないように、白い魔導機を突き放して敵に向けて戦いの姿勢をとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます