第151話 ピンチの時には/渚

闇翼の魔導機は20機ほど、私を取り囲むように近づいてくる。囲まれないようにゆっくりラスベラの位置を調整して、敵の攻撃に備える。


左右から二機の敵機が同時に攻撃してきた。その攻撃スピードは今まで見たこともないくらいに早い。咄嗟にしゃがんでその攻撃を避ける。すぐにカウンターで太刀を振って攻撃をしようとしたが、前方からきた別の敵機が長い槍で突き刺してきた。鋭く、素早い突き攻撃に反撃を取りやめ前転で避ける。


転がった先には新たな二機の敵機が待ち構えていた。大きな剣と長い棒の先に斧が取り付けられた武器で、地面を抉るような攻撃でラスベラに襲いかかってくる。素早く体を捻りなんとかその攻撃も避けた。


あまりにも全ての攻撃が早く、いつものように反撃ができない、このまま攻撃を受け続けていては勝算はないだろう、そう考えた私は少し無理してでも攻撃に転じることにした。


右から円月型の刀で切り掛かってきた敵機に対して、逆に一歩踏み出し接近すると、太刀を突き出し胸を突いた。いつものように太刀が敵機を貫く感覚でいたが、ボディーの強度があるのか、ギギギッと嫌な音を響かせて太刀は横滑りする。私は諦めず、太刀を一度引いて、今度はもっと力を入れて太刀を敵機の首元に叩きつけた。


太刀は敵機の首元に深く刺さったが、そのまま太刀が抜けなくなる。敵機は太刀を首元に残したまま地面に崩れ落ちた。


太刀と引き換えにようやく一機倒したが、休む暇などなく、今度は三方向からの同時攻撃が襲いかかってきた。前方の敵機の攻撃を体を入れ替えるようにしていなすと、右腕をとり,相手の力を利用して地面に引きずり倒す。倒した敵機を盾にするように残りの二機の攻撃も防いだ。しかし、その瞬間、左肩辺りに衝撃が走る。


三機の攻撃を防ぐタイミングを見計らっていたのか、後方から槍の一撃を受けていた。左肩の部品が弾け飛びプシュプシュと嫌な音がしていた。


私は体を半回転させて槍で攻撃してきた敵機に近づくと、その敵機の足をお尻の方から抱え上げるように持ち上げ、ラスベラの体全部を使って足を捻り上げた。バキバキバキと乾いた音がして、敵機の足はボロボロに砕かれる。


だけど、その敵機は足を砕かれながらラスベラを両腕でしっかりと捕まえる。


動きを封じられたラスベラに、四方向から容赦ない攻撃が襲いかかってくる。私はしがみ付いているボロボロの敵機の足をさらに捻り、捕まえている敵機と体を入れ替えた。鉄と鉄が擦り合わせたような高い音が無数に響き、私の盾となった敵機は無残な残骸と変えられる。


なんとか攻撃を防いだが、ラスベラも無傷ではなかった。頭部の一部が抉られ、腰の装甲がはぎ取られている。さらに状況も良くなっているわけではなく、私を囲んでいる四機は、武器を振り上げ、次の攻撃を繰り出そうとしていた。


「渚!」


ユキハの叫び声と同時に、取り囲んでいた四機の敵機が攻撃を止めて、別の何かを見た。私も彼らの視線の方を見る──するとボロボロの状態のエウアールが私を助けようと走り寄ってきていた。ジハードのイダンテとデルファンのバシムもそれに続いて駆け寄ってきていた。


私の周りにいる四機とは別の敵機が面倒臭そうにユキハたちに近づくと、軽く剣を振って頭部を飛ばした。


三人の魔導機の頭部が吹き飛ばされる衝撃の光景を見て、視界が真っ暗になる──意識が少しなくなったのか、次に私が見たのは両脇を敵機に抱えられ拘束されている自分の姿であった。さらに私の前には大きな剣を持っている魔導機が立っていた。


何かの合図とともに、大きな剣が振り下ろされる。ラスベラの右腕が切り飛ばされるのをはっきりと感じた。さらに強引に立ち上がらされて、右手を切り飛ばした敵機の前につき出される。剣を構えた敵機は容赦無くその剣を振り下ろした。


今度は左手が切り飛ばされた──どうやら敵は私をなぶり殺しにする気のようだ。たった二機でも仲間をやられたのに腹が立ったのだろう……


両手を失い何も抵抗ができない、絶対的ピンチの時……私は無意識に大好きな幼馴染みの事を思い出していた──


近所のいじめっ子、幼い頃より合気道を習っている私の敵ではなく、他の子をいじめているのを見つけたら、コテンパンにして凝らしてめいた。いつものようにいじめっ子が他の子のおもちゃを取り上げていじめている、私は迷わず助けに入ったのだけど、不運なことにその日はいじめっ子の年長の兄が一緒だった。


歳が離れた男の子を相手に、私は逆に倒され、何度もその拳で顔を殴られた。強気で負けん気の強かった私は泣くことはなかったけど、それが逆に相手を怒らせることになった。女のクセにとか、早く泣けよと罵られないがら殴られ続ける。みんな後で怖い目にあうのが嫌なのか見て見ぬフリをして助けるものはいなかった──一人を除いては……勇太は私の名前を叫びながら、馬乗りになるいじめっ子の兄に体当たりをした、そしてなぜか泣きながら力ない腕で必死に掴みかかり、腕に噛み付いた。


いじめっ子の兄は私たちより年上だけど、まだまだ子供だ、噛みつかれたのが余程痛かったのか、最後には、え〜んえ〜んと大声で泣き出した。


勇太はよほど怖かったのか、引きつった泣き顔で「渚、大丈夫か?」と言ってくれた。


それからも私がピンチになると必ず勇太は現れた、必ず助けて欲しい時は私を救ってくれる。今もそんな時なんだけどな……だけど流石に今回ばかりは無理だろう、私はすでに諦めていた。


ふと見ると、最後の一撃だろうか、敵は大きく振りかぶって、両手を失って抵抗できないラスベラにその剣を振り下ろそうとしていた。もう避ける気力もない……ごめん、みんな……ごめん、勇太……私、ここで死んじゃうみたい……


────諦めんな! ──


心のどこからか勇太の声が聞こえた。私はその声を従って咄嗟に体を捻って最後の一撃を避けた。


「避けられただろうが、ちゃんと掴まえてろよ!」

剣を振り下ろした魔導機からそう注意され、左右にいた魔導機がラスベラを押さえつけて動けなくする。もう避けることもできな……そして、もう一度仕切り直しするように剣を振り上げる。


「仲間をやられた恨みだ、死ね!!」


そう言って剣が振り下ろされる。


「勇太、助けて!!」


届かないのは分かっていている、だけど私は声に出して叫んでいた。


──振り下ろされるであろう剣の衝撃をギュッと目を閉じて待っていた。だけど、いつまでもその衝撃を感じなかった。死ぬってこんな感じだろうか、そんな風に感じながらゆっくりと閉じた目を開いた。


最初に目に入ったのは、剣を振り下ろした魔導機の無残な姿だった。頭部が無くなり、剣を持っていた腕も失っている。


一瞬、何が起こったかわからなかった。だけど、私を掴まえていた左右の敵機が人形のように吹き飛び、真っ二つに切り裂かれ、初めて知らない魔導機が私を助けてくれたことに気がついた。


その魔導機は白く美しく、そして強かった──あの強い闇翼が子供でも相手にしているように圧倒されている。


そんな白い魔導機に、幼少の頃の勇太が重なる──あんなに強くなかったけど、なぜかどことなく動きが彼に酷似しているように見えた。勇太が魔導機に乗って私を助けにきた、そう思いたい気持ちはあったけど、やはりそれは儚い妄想だろう。

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