第88話 潜伏
「勇太、ライドキャリアとかなり逸れちゃったね」
「向こうは大丈夫なのか」
「うん、みんな無事で逃げれたみたいだよ」
「なら良かった、後は合流して今後の話をするだけだな」
俺とナナミは深い森へと逃げ込んだ。この森は背の高い木々が多く、魔導機でも十分に身を隠すことができたので追手から逃れることができた。
合流地点などの話をする為に、ライドキャリアと連絡を取ることにした。ヴィクトゥルフには言霊箱がないので、ナナミのヴァジュラから通信する。
「ジャン、みんな大丈夫か」
「おう、みんな無事だぜ、そっちはどうだ」
「問題ない、完全に敵はからは逃げ切っているよ」
「そうか、なら直ぐに合流する必要もないかもな」
「えっ、どうしてだ」
「下手に動いて場所を勘ぐられるより、今日は大人しくして、合流は明日にした方が安全だろ」
「確かにそうだな、わかった、合流地点はどうするんだ」
「カロン公爵邸にしよう、リンネカルロが言うにはカロン公爵……いや元カロン公爵が協力してくれるだろうと言ってるんでな」
「そうか、わかった、それじゃ明日カロン公爵邸に向かうよ」
明日の合流地点も決まり、話が終わったので通信を切った。
「勇太、ナナミお腹空いたよ」
「俺もだ、ご飯のこと考えてなかったな、街に行くわけにもいかないし……よし、何か食べるものを探そうか」
「食べるものなんてあるかな」
「これだけの大自然だ、何かあると思うぞ」
ついでに身を隠せる場所も探しながら食べ物がないか探索する──すると岩場の間に湧き出る小さな泉を発見した。
「湧き水のようだから飲めそうだな」
「ナナミ、喉がカラカラ」
恐る恐る水を手にすくって口に運ぶ……喉の渇きもあるだろうけど、冷たくてかなり美味しく感じた。ナナミは顔を泉に突っ込んでゴクゴクと飲んでいる──息が限界になって勢いよく顔をあげた。
「ぷはっ! 生き返った!」
「あまり一気に飲むとお腹壊すぞ」
「大丈夫、ナナミのお腹は丈夫だから」
どんな根拠があるのかナナミは堂々とそう言い張った。
「しかし、この泉、水は綺麗だけど魚はいないようだな」
「そうだね、お魚さんいれば良かったのに」
泉の周りにはキノコなどが生えていったが、流石に毒が怖くて食べる気にはならない。食べれる野草などの知識もないし、どうしたものか……
「ちょっと待てよ、ナナミ、何か聞こえないか」
「えっ、何も聞こえないけど……」
「いや……これは水の流れの音だ、川が近くにあるのかも」
「川ならお魚さんいるよね!」
「そうだな、可能性はあるかも」
俺たちは周辺を探して、綺麗な水が豊富に流れている自然豊かな川を見つけた。
「おっ、ここなら魚がいそうだな」
「絶対いるよ、ナナミ、早くお魚食べたいよ」
「よし、じゃあ、早速捕まえるか」
「でも、どうやって捕まえるの?」
「そうだな……アミも罠も釣竿もないからな……」
どうやって魚を捕まえるか考えながら何気なくヴィクトゥルフを見て、思いついた。
「いい方法思いついたぞ、ナナミ」
「どうするの?」
「まあ見てろよ」
俺はそう言うと、ヴィクトゥルフに乗り込み、川辺にあった大きな石を持ち上げた──それを川の真ん中にある大きな岩にひょいと投げてぶつけた。
ガツッと鈍い音が響いて、投げた石が砕ける。
「何してるのよ勇太、石なんて壊して」
石を投げてしばらくすると、ぶつけた岩の周りから魚がプカプカと浮かんでくる。
「ほら、ナナミ、早く捕まえないと流れていっちゃうぞ」
「ウソ……わわっ!」
浮かんできた魚をナナミが慌てて捕まえる。俺もヴィクトゥルフの大きな手ですくって浮いてきた魚を捕獲した。
「すっごいよくあんな方法思いついたよね」
「俺の国に昔からある漁の方法なんだよ、確かガチンコ漁だったかな」
「勇太って物知りだよね、ナナミ、何も知らないから……」
ナナミは学ぶ機会がなかっただけだからな……やっぱりナナミにちゃんとした教育の機会を与えたいな……
「……大丈夫だよ、ナナミ、これからいくらでも学べるよ」
「うん、そうだよね、ナナミもお利口さんになれるよね」
大量に捕まえた魚を木の枝に刺して、ナナミと悪戦苦闘しながら起こした焚き火でその魚を焼きながらそんな会話をしていた。
「ほら、ナナミ、これはもう食べれるんじゃないか」
「ありがと、勇太」
ナナミは魚の背中の部分に思いっきりかぶりついた。
「美味しい! 凄く美味しいよ」
「よし、俺も食べてみよう」
ちょっと塩気がなかったけど、確かに脂が乗っていてかなり美味しかった。かなりの数を捕まえたはずだったけど、俺とナナミであっという間に平らげてしまった。
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