第78話 野盗のアジト
情報を得た俺たちは、ライドキャリアへと戻って、作戦会議をすることになった。
「野盗のリーダーは獅子王と呼ばれている男らしい」
「獅子王? またなぜそんな名で呼ばれてるんだ」
俺がジャンにそう聞き返すとジャンはさらに言葉を続ける。
「常に獅子の仮面をつけていて、その顔を隠しているそうだ。顔を隠すにはいくつか理由が考えられるけど、悪いことする奴が顔を隠す理由なんて大体予想ができる」
「なんだ、その理由って」
「まあ、顔に大きな傷や火傷があって他人に見せたくないって可能性もあるけどよ、それより、もっと可能性があるのはその人物が自分の顔を誰にも知られたくないと思っているってことだな」
「そりゃ悪いことしてるんだから顔を知られたくないって思うのが普通じゃないのか?」
「普通のその辺の悪党が、自分の顔を知られたくないなんてナイーブな感情持ってると思うか? 顔を知られたくないってことは、顔を見られたら誰かわかってしまうから困るって人物……おそらく、俺の予想ではその野盗のリーダーはこの国の有名人、少なくても名前を出せば誰でも知っているような人物だろうな」
「ええ! それって凄く大きな問題じゃないのか?」
「そうだよ、大きな問題なんだよ、だからそいつは顔を隠してるんじゃねえか」
ジャンってたまに凄いよな、よくそれだけの情報でそこまでの予想ができるよ……ジャンは野盗が出没するポイントや、アジトの正確な場所まで掴んでいた。
「デナ山の中腹の洞窟が奴らのアジトだ、敵の戦力は魔導機三十機くらいらしいから、お前らなら楽勝だろ」
「よくもあの街の連中からそんな情報まで聞けたね」
アリュナも感心したようにそうジャンに言う。
「いや、いくらロルゴを見てビビっても、素直に教えてくれたわけじゃねえよ」
「それならどうしてそんな情報が手に入ったんだい」
アリュナが怪訝そうにそう聞く。
「小さな情報を大量に集めて、矛盾点や不確定な情報を精査して、一つの確実な情報にしたんだよ」
「うっ……ジャン、俺にもわかるように言ってくれ」
「たくっ、それくらい理解しろよ、いいか、畑に四本の果実の木があるとしよう、畑の主がこの中の一本になる実を全部やると言われたが、四本のうち、美味しい実をつけるのは一本だけ、美味しい実がなる木がどれか知る為にその畑の従業員達に聞こうとしたが、従業員達は主に美味しい実がなる木を教えてはダメだと口止めされていた。そこで従業員達にそれぞれ小さな質問をすることにした、一人には美味しい実の木の高さを、一人に美味しい実の木の葉の色を、一人には一番美味しくない実の木を……それぞれの情報をまとめると、美味しい実の木がどれかってわかるってことだ」
「なるほどね、詳細をペラペラ喋るのは抵抗あるけど、少しの情報なら抵抗なく話してくれたってことね」
アリュナは理解したみたいだけど、俺はフワッと理解しただけであった。これ以上聞いても完全に理解できそうにないので、話を変えた。
「まあ、アジトがわかったんなら話が早いな、そこを襲撃して一網打尽にしよう」
俺がそう言うと、みんな頷いて同意した。
デナ山は情報集取した領主の城下町からライドキャリアで数時間の距離にあった。移動はジャンに任せて、俺たちはライダーはその間に休息を取る。
「そろそろデナ山に到着するぞ」
「ジャン、ライドキャリアはこの辺で待機した方がいいじゃない」
「だな、もう見張りがいてもおかしくないだろうからな」
ライドキャリアはデナ山の麓の森に隠れて待機することにして、ここからは魔導機でそっと近づくことになった。
出撃するのは俺とアリュナ、ナナミ、エミナ、アーサーの五人、ロルゴとファルマは念のためにライドキャリアの護衛として残ることになった。
「勇太、止まって」
ライドキャリから10分ほど移動した渓谷で、いきなりアリュナにそう言われた──俺は慌ててアルレオの歩みを止める。
「どうした、アリュナ」
「あそこ見て……見張りの魔導機がいるよ」
よく見ると数百メートルくらい先の崖上に、二体の魔導機の姿が見えた。
「見張りだね……」
「どうしようか、二体だし、サッと片付けるか?」
「いや、下手すると気づかれるわね、一網打尽にするにはまだ気づかれない方がいいでしょう」
「私がやるわ、ここで待ってて」
エミナがそう言ってアルテミスで見張りの魔導機に近づいて行った。
ブワンッと音が鳴ると、アルテミスの姿が周りの風景に同化する──パッと見ではエミナがどこにいるかわからなくなった。
「あれがアルテミスの保護色能力……凄いね……」
見てると見張りの魔導機の一体がいきなり膝をついて崩れ落ちた……それに気がついたもう一体の見張りが倒れた魔導機に近づくが、そいつもビクッと体が硬直したと思った瞬間、前に崩れるように倒れる──
アルテミスの保護色が解かれて崖の上に現れると、こちらに向かって手を振って合図を送ってきた。それを見た俺たちは警戒しながら前を進み始めた。
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