第62話 渓谷の決闘

リンネカルロとの勝負の場所は、都市から少し離れた渓谷であった。ここなら多少激しく戦っても迷惑にはならないだろう。


「あら、逃げないでちゃんとくるなんて感心しますわね」


「当たり前だ! 昨日の飲食代、払ってもらうからな!」

ジャンにとっては飲食代の方が重要なようだ……


「フフフッ……いいですわ、私に勝ったら払って差し上げますわ」


余裕の表情でそう言うリンネカルロを見て、アリュナがボソッと指摘する。

「あれは確信犯ね……今日の勝負で勝って、昨日の飲食代はうやむやにするつもりよ」


飲食代を払う払わないの話になっているのは気になるが、勝負は勝負、真剣に行こう。


2対2の戦い、相手はリンネカルロとアーサー、こちらは俺とナナミが出ることになった。


リンネカルロとアーサーが魔導機で現れると、ファルマが感動の声をあげた。


「魔導機セントールだ……そして魔導機オーディン……激レアの魔導機を同時に二体も見れるなんて、私幸せ……」


アーサーの魔導機は少し変わった見た目をしていた、下半身が四足歩行の馬のような形状で、ファンタジーゲームに出てくる空想上の種族のケンタウルスに似ている。武器は中世の騎士が持つような長く太い槍……確かランスって言ったかな、それを右手に持って、左手には小さな盾を装備している。


リンネカルロの魔導機は、黒と黄色のカラーリングのしっかりとした体型で、動きはあまり早そうに見えないが力強そうなイメージはある。しかし、武器は長い棒の先端に大きな宝石が装飾されている杖のような物で、どのように使うのか想像ができない。


「どういたしますか、2対2で同時に戦うか、それとも1対1で順番で戦うのか」


「ごちゃごちゃするのは嫌なので、1対1で順番に戦おう」

「わかりましたわ、それではこちらからは最初にアーサーを出しましょう」


「ナナミ、最初に行くか?」

「うん、ナナミに任せて」


と言うことで初戦はナナミとアーサーの一騎討ちとなった。


「よし、それじゃ、俺が審判をしてやるよ、合図を出したら戦闘開始だからな」

ジャンがライドキャリアの外部出力音でそう声をかけてくる。


少し距離を空けてナナミのヴァジュラとアーサーのセントールが睨み合う……しばしの沈黙の後に、ジャンの開始の掛け声が響いた。


「試合開始!」


最初に動いたのはアーサーのセントールだった、ナナミのヴァジュラに向かって突進していく──驚きなのはそのスピードだった、やはり馬のような見た目なのは伊達ではなく、一気にナナミに接近する。


想像より早い突進に、ナナミも盾で防ぐのが精一杯だった……セントールのランスと、ナナミのシールドが激しくぶつかり、突進してきた力が加わったランスの凄まじい威力にナナミのヴァジュラは後ろに吹き飛ばされた。


「きゃ〜!」

「ナナミ!」


「ナナミ、気をつけて! セントールの突進力はトリプルハイランダーの機体にも致命傷を与えれる威力があるよ!」


ファルマが大きな声でそう教えてくれる。


「あら、アーサーのセントールの突進を初見で防ぐなんて予想よりやりますわね、もしかしてトリプルハイランダーくらいの力はあるのかしら」


魔導機の外部出力音で、リンネカルロはそう話しかけてきた。


ヴァジュラが立ち上がる前に、セントールはもう一度距離を取るためにぐるりと回って間合いをあける……そして一定の距離になると、一気に加速してヴァジュラに向かって二度目の突進を実行した。


だが、天性のセンスだろうか、ナナミに二度も同じ攻撃は通用しなかった。紙一重でランスの突進を避けると、回転しながら剣でセントールの足の一本を切り飛ばす──


「なっ!」


前足の一本を切り飛ばされたセントールは、バランスを崩して前のめりにぶっ倒れた。


「よくセントールの弱点が足だってわかりましたわね、足を一本失っただけで、もうセントールは突進することはできませんもの」


なんとか立ち上がったセントールだったが、フラフラとバランスを取るのがやっとの状態だ。そんなセントールに近づいたヴァジュラは、残った前足を切り落とした。


セントールは両方の足を失い、立ち上がることもできなくなり、そこで試合は終了となった。


「勝負ありだ、ナナミの勝ちだな」


ジャンがそう宣言して一回戦目が終了した。


「なんてザマですかアーサー、そんなことで私の騎士になれるとでも思っているのですか」

「も……申し訳ありませんリンネカルロさま……」


「まあ、いいですわ、最初から私一人で戦うつもりでしたし、問題ありません」


今の戦いを見ても、リンネカルロの声から不安とか動揺している感じはなかった。トリプルハイランダーのナナミ相手にも動揺すらしないのは不気味にすら感じていた。

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