第56話 初めての感情
☆
戦争で倒し倒されするのは当たり前、それに対して職業軍人である私が個人的な恨みを持つことなんてあり得ない……が、こんな少女にやられたなんて……私は何とも言えない初めての感情に揺れていた。
「わ……私と、もう一度勝負して!」
思わずそう言っていた。
「え……ナナミと勝負?」
「そうよ、別に殺し合いをしようってわけじゃないわ、模擬戦でいいから私と戦って!」
「おいおい、何、勝手なこと言ってんだよ、そんな1ゴルドにもならない勝負なんて受けねえぞ」
とんがり頭の男が話に割って入ってくる、確かにそんな勝負を受ける理由なんてないと思うけど、私の感情は止まらない。
「わかりました、勝負するだけで50万ゴルド、私に勝ったらさらに50万ゴルド支払います」
「よし、ナナミ、いっちょ揉んでやれ」
「ええ〜! やだよ……」
とんがり頭は乗ってきたが、ナナミは難色を示している、さらにお金を上乗せしても彼女の気持ちは変わらないように見えた。
「どうして私と戦いたくないのですか」
「だってお姉さん強いもん、それに顔も知ってるから戦いにくいよ」
見知っている相手とは戦えないとは……傭兵と言ってもまだ子供ね……
「模擬戦ですよ、訓練で仲間同士て戦ったりしないのですか?」
「するけど……それにお姉さん、魔導機ないよね、どうやって戦うの?」
「誰かの魔導機をお貸しください」
私がそう願い出ると、すぐに赤髪の女性がこう宣言してきた。
「私のベルシーアは貸さないよ」
さらに獣人化している少女もオドオドと拒否する。
「私のガルーダもダメ……誰にも乗って欲しくない」
確かに傭兵にとって魔導機は大事な商売道具だ、貸し借りなんてしないのは重々承知しているけど……
「俺のアルレオだったら貸してもいいけど、乗れるかな……」
「貸してくれるんですか!」
「いや、いいけど多分乗れないよ」
「私はダブルハイランダーです、ほとんどの魔導機に乗ることができますから大丈夫です!」
「でもね、俺のアルレオは……」
「よし! 勇太がいいって言うなら貸してやろう、だけど乗れても乗れなくても貸出代として50万ゴルド貰うぞ、それでいいか!」
勇太と言われた黒髪の男の言葉を遮り、とんがり頭が魔導機の貸し出しを了承した。
「いいでしょう、50万ゴルドお支払いします!」
「それに乗れなかった場合はお前の負けってことになるけど、それでもいいか」
「もちろんです、その場合は私の敗北で構いません」
「いや、だから……アルレオは……」
勇太はまだ何かいいたそうだが、とんがり頭の男はどんどん話を進めていった。
「よし! じゃあ、早速格納庫へいくぞ! ナナミ、お前も用意しろ!」
「ええ〜〜 やだな……」
貸し出された機体はチルニで見た白い魔導機だった。いい動きをしていたのを覚えている……これなら戦える……
私はハッチを開いて白い魔導機に乗り込んだ。そしてすぐに操作球に手を置いて魔導機を起動しようとした……
「嘘でしょ……」
魔導機は全く反応をしない。
「お〜い、どうした、早く起動しろよ〜」
外からとんがり頭の声が聞こえてくる。どうして動かないの……まさかこれはトリプルハイランダー専用機? やられた! あのとんがり頭、私にはこの機体に乗れないのを知っていてあんな条件を言ってきたのね。
「ちょっと、あなた! 私を嵌めたわね!」
ハッチを開いてそう怒鳴った。
「嵌めただって? 何言ってるんだよ」
「この機体はトリプルハイランダー専用機でしょ! それを知っててあんな条件を……」
「おいおい、アルレオのライダーの勇太はトリプルハイランダーじゃないぞ」
「はあ? そんなわけないでしょ!」
「じゃあ本人にルーディア値を聞いてみろよ」
「……あなたのルーディア値って……」
そう聞くと、勇太はあっけらかんとこう答えた。
「俺のルーディア値は『2』だよ」
「…………ふざけてるの?」
「いや、誰も信じないけど本当なんだって!」
ルーディア値が一桁なんて人間が存在することすら信じられないが、その一桁が乗りこなしている魔導機に、この私が起動することもできないってどう言うことなのよ……
「さて、勝負は終わりだな、勝負代50万ゴルド、勝利報酬で50万ゴルド、アルレオ貸出代50万ゴルドで計150万ゴルドになるな、耳を揃えて払って貰うぞ」
とんがり頭がニタニタと嫌な笑みを浮かべてそう言った。
「払えばいいんでしょ、払えば! 近くの町によって、ラドルバンクでお金を下ろしますから」
お金の支払いの為となれば行動が早い、すぐに近くの町へと向かい、ラドルバンクの支店の前へと送ってくれた。
ラドルバンクに入ると、出金の手続きをしようとカードを受付に渡した。エリシアまでの旅費もついでに下ろそうと考え、200万ゴルドの出金を受付に伝える。
「申し訳ございませんがこちらのカードは無効になっております」
「え! 無効って……どうしてですか!」
「契約者様がお亡くなりになって口座が凍結されています、あなた、こちらのカードをどこで手に入れたんですか?」
受付は不審な目で私を見てくる……お亡くなりになったって……
「あらら……どうやらあんた、母国で死んだことになってるみたいだな」
とんがり頭の男がそう言うが……多分その予想は間違ってないかもしれない……どうしよう……こんな大陸の南にはエリシアの施設もないし……150万の支払いどころかエリシアへの帰還も難しくなってしまった……
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