第55話 自由な捕虜
☆
随分長く寝ていたような気がする……ボーとして近々の記憶が曖昧だ……
「ここはどこ……」
周りを見渡すがそこは見知らぬ部屋だった、自分の寝ているのが医療カプセルなのを考えると怪我の治療をされていたようだけど……
私は医療カプセルから出ると、部屋の外に出ようとした……だけど自分が裸であることに気がついて、衣服が無いか部屋を見渡した。
その時、シャーと音がして部屋のドアが開かれる……入ってきたのは若い男だった。
裸の私と目が合うと、その男は慌てた様子で自らの視界を閉ざして謝罪してきた。
「ご……ごめん! もう起きてると思わなかったから! こ……これを……」
そう言って私を見ないようにして手渡してきたのは白いシンプルな服だった。私はそれを着ると、男に質問した。
「ここはどこですか?」
「ライドキャリアの医療室だよ」
「なぜ私がここに?」
「大怪我してたから治療してたんだ、もう治ったようでよかった」
「私を助けてくれたんですね、礼を言います」
「いや、怪我させたのはこちらだしね」
「……ちょっと待って、怪我させたって……」
その言葉がきっかけで少しづつ記憶が蘇ってくる……確か私は獣王傭兵団との戦闘で……
「もしかしてあなた獣王傭兵団の人間!」
私はそう叫びながら何か武器がないか部屋を見渡す。しかし、男は首を横に振って否定した。
「ち……違うって、どうして獣王傭兵団の名前が出てくるんだよ」
「どうしてって、私は獣王傭兵団の魔導機にやられて……」
「俺たちは無双鉄騎団だよ、どうしてそんな話になるかな」
「無双鉄騎団……何よそれ?」
「傭兵団だよ、自分を倒した相手だぞ、覚えろよ!」
「私があなたたちに……それじゃあの金色の魔導機は……」
「それはヴァジュラ、俺の仲間の魔導機だよ」
「ふう……わかった、あなたたち無双鉄騎団が私を倒したのは理解したわ、でも、なぜ私がここにいるのかわからないんだけど」
「大怪我していて、すぐに治療しないと危なかったんだよ、だから医療カプセルで治療して……」
「ちょっと待って、そんな理由で敵の私を助けたの?」
「敵だろうと関係ないだろ、怪我してるんだから助けるのが普通だ」
どうもこの男の言っていることが理解できない……そうか……私の命を助けてエリシアから身代金をせしめるつもりね……
「わかった、身代金が目的ね……それは賢明な判断ね、私はダブルハイランダーだから一億や二億くらい簡単に出してくれると思うわよ」
「身代金って……俺たちは犯罪者じゃない、身代金なんていらないよ。別に拘束するつもりもないし、もう怪我も治ったようだから、いつ出て行ってもいいよ」
何を言ってるのこの男……何も利益を得ずに敵を助けたって言うの? ありえない……そんな傭兵がいるわけないわ、何かもっと何か理由があるはず……
「それよりお腹空いてない? ここを出ていくにしても飯くらい食っていけば?」
敵からの食事の誘いを警戒しながらも、私のお腹は正直な反応をした……ここでエネルギーの補給するのは母国に帰る為の重要な行為と自分を納得させ、食事の提供を受け入れた。
「カークス共和国は滅亡したの!」
食事を取りながら私が医療カプセルに入ってからの話を聞いていた。
「そう、エリシアからなんだっけ、大陸最強ライダーのなんたらってのがやってきてサクッと滅亡させたようだよ」
「まさかユウトさんが……どうしてそうなったの? いくら何でも属国の戦争にユウトさんが出てくるなんてあり得ないんだけど」
「そんなの知らねえよ、俺たちはあんたを助けた後すぐにカークスとの契約を解除して国外に出たからな」
変なとんがり頭の男はソーセージを頬張りながら無関心にそう言う。
「まあ、それはエリシアに帰ったら分かることでしょうけど……それより、あなたたち、敵と食事をしているのにすごく自然体ですね、警戒とかしないのですか?」
子供もいるからか、何ともアットホームな雰囲気に思わずそう聞いていた。
「敵と言ってもカークスと契約していた間の話だろ、今はそのカークスも存在しないし、別に敵ってこともないんじゃないかな」
「まあ、傭兵特有のドライな感覚なのかもしれないですけど、この中の誰かに、私が倒された事実はなくならないのよ、その人物に対して私が恨みを持ってるとか思わないの?」
そう私が言うと、なぜか一人の少女に皆の視線が集まる、視線を受けた少女は席を立つと私の方へと歩みを進める。
「ご……ごめんなさい……ナナミも必死だったから……」
頭を下げながら少女は私に謝罪してきた。
「嘘でしょ……もしかしてあなたがあの金色の魔導機のライダー……」
ナナミと名乗った少女は小さく頷く。衝撃だった……あの強敵の魔導機のライダーがこんな少女だなんて……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます