第256話◇フェニクスパーティーVSエリーパーティー3
フィールドを二分する魔法だ。即座に高威力の精霊術は唱えられまい。
それは隙になる。
アタシはフェニクスから意識を外し、ベーラへと襲いかかる。
予想外だったのは、ベーラもまたアタシの動きを読んでいたこと。
アタシのやっていることを知った上で、四人を放置してベーラに襲いかかると予想していたのか?
――随分冷静な子じゃない。
「『
ベーラの魔力が薄く広く広がる。
その領域にアタシが踏み込んだ瞬間――。
魔力が唸りを上げてアタシの周囲に集まり、氷の円錐となって地面から生えてきた。
「あら」
そうだった。彼女は
フェニクスパーティー加入時点で、魔力制御に関しては類まれな才覚を見せていたではないか。
事前に魔力を散布し、自分以外の魔力反応があれば自動で襲いかかる精霊術を組み上げたのだ。
けれど、アタシが回避出来ないほどではな――ッ!?
アタシは行き先も何も決めず、とにかく反射で風魔法を吹かす。
自分の背中を貫く筈だった氷の円錐が、右足を僅かに削り取ったのが分かった。
「
見誤った。
氷の剣の雨を降らせ、氷壁を展開し、自動迎撃の精霊術まで展開。
これだけでも一度に消費する魔力としては多すぎるくらいだ。彼女の年齢から推測される魔力器官の成長度合いを考えれば、少し無理をしてなんとかといった量。
だが、彼女は魔力操作が得意。だから、一つずつに込める魔力を減らすなんてことも出来るわけだ。本来ならば威力が下がるが、氷の剣で狙っているのはサポート【
耐久力はそうない。
加えて言えば、氷壁だ。アタシが強行突破を狙えば一瞬で砕けるような、よく見ればスカスカなのだった。
アタシが合流よりもベーラを狙うことを前提にした、魔力節約。
一瞬の判断が求められる場面だからこそ、アタシの注意が向かない部分を敢えて疎かにした。
そうして稼いだ余分な魔力を、ここぞという時に投入。
自動迎撃に感心していたアタシは、一瞬とはいえそれを意識から外してしまった。
『白氷結界』とは別に、彼女が手動で氷の円錐を放つ可能性を。
ゾクゾクと、背中から恐怖とも快感とも言えぬ感情が駆け上ってくる。
この子は、これからどんどん強くなるだろう。
それでも、今日勝つのはアタシ達だ。
制御せず加速したせいでぐわんぐわんと揺れる視界。空中で立て直し、そのままベーラに向かう。
勝負は一瞬でついた。
結界内に侵入。迎撃するために生えてくる円錐は避けるか風刃で切り裂く。
ベーラがレイピア型の聖剣を抜く。
アタシ達の距離が刹那でゼロになり、そのまま大きく離れる。
【絶世の勇者】が【氷の勇者】と交差し、そのまま駆け抜けた形だ。
「黒、魔法……」
ベーラの腹部が大きく裂け、そこから大量の魔力粒子が漏れ出す。
「ありがとうベーラ。アタシを落とすことに集中してくれて」
ライナーとライアンの黒魔法によって、思考力低下を掛けさせた。
合図も掛け声もない。氷の壁で視界さえ遮られている。
それでも関係ない。
本来ならば
再生成はすぐにとはいかないのだ。
そして、アタシを迎え撃つことに残る魔力を注いだ。
ほんの僅かに魔法発動を遅らせる程度の思考力低下でも、突風となったアタシを相手どるには致命的な遅延となる。
「こちらこそ。私を落とすことに集中してくださって感謝します」
ベーラの言葉の直後、実況の声が鼓膜を揺らす。
『ベーラ選手の新魔法がエリー選手に猛威を振るったかと思えば、白雪と銀灰は瞬きほどの間に交差! そして決着! ベーラ選手、致命的な魔力漏出を起こしています!!! ――一方でこちらも驚きの展開!』
そう、驚きだ。
そうして、実況の声がフェニクスパーティーの戦果について触れる。
『ベーラ選手の「凍剣雨」を華麗に回避する四人でしたが、ここでその動きに乱れが! なんと氷の剣の影に、リリー選手の矢が潜んでいたのです! ギリギリで剣を避けたライナー選手の肩とライアン選手の右ももを貫く鏃! ライアン選手ここで機動力を損なう傷は痛すぎる――!』
アタシは魔力や物質の形状から脅威を測り、風魔法で四人に伝えている。
氷の剣に寄り添うように放たれたリリーの矢までは、見分けがつかなかったのか。
アタシのサポートで分かるのは、氷の剣が降ってくるタイミングまで。
問題はいつ放ったかだが、アタシの意識がフェニクスやベーラに向いたタイミングだろう。
にしても、なんという腕。
ベーラの魔法にピッタリと合わせるなど、『神速』にも劣らぬ神業ではないか。
『どよめく会場!! 地面に固定されたアルバ選手の魔法剣は地中を掘り進み、ジャン選手の足元から出現! その背中を大きく切り裂いたのです! 先程の二人よりも甚大なダメージ、ジャン選手の体が崩れ始めます!』
有り得ない――とは、言い切れない。
アルバの魔法剣は起動前に伸縮のタイミングを設定しておかなければならない。
伸び縮みの間に新たな命令を出すことは出来ないのだ。
だからこそ、アタシは
アタシの用意した
だが拘束が壊された気配はない。
そもそも真っすぐは伸びないように固定――だからこそ、地中か。
だとするといつから――最初から、ということになるのか。
アルバは最初から、アタシの魔法による妨害があると想定していた。
だから起動前の段階で、地中に潜るように設定したのだ。
アタシが風刃で弾こうが、空気の壁で阻もうが、鎹で固定しようが、剣が目指すのは大地の下。
まったく、やってくれる。
魔法剣を封じられた時、彼は悔しそうに舌打ちまでしてみせた。
あまりに彼らしいその反応さえ、アタシを欺くための演技。
フェニクスパーティーの研究はしている。
かつてのアルバであれば、一時的とはいえ自分を愚かに見せるやり方はとらなかっただろう。
観客に『ご自慢の魔法剣を封じられた間抜け』ととられかねないというのに、彼はそれを作戦に組み込んだわけだ。
「うちの勇者にゃ
アルバが自分の性質よりも優先するものがあるとすれば、それくらい。
フェニクスを一位にすること。
火精霊の魔力を節約するためならば、道化を演じることも躊躇わぬということか。
「見直したわよ、半裸ヤンキー」
【黒魔導士】レメを脱退に追い込んだと嬉々として語るニュース映像を見た時は呆れたが、彼の今回の行動はアタシ達を強く警戒した末のもの。
彼はどうやら、自分の過ちから学び、次なる失敗を防ぐべく努力出来る人間のようだ。
「あ!?」
ガラの悪さだけは変わらないけれど。
「五秒あげる」
ベーラはじきに退場する。
ジャンは救えない。傷が深すぎる。だがライナーとライアンはまだ間に合う。
とはいえ、今もリリーの矢は続いている。
白魔法を治癒に切り替える余裕はない。
残る敵は四人。
レン――魔王軍参謀につけた愛称――たちとの模擬戦とは、状況が違う。
あの時は、互いの能力を確かめるのが目的だった。
そうして、どちらが指示を出す立場に相応しいか見極める意図があった。
アタシ達の戦い方を理解した上で、急造チームでこちらの
だが、この場は違う。
仲間を一人欠いたからといって、仲間が自分にとってとても大事なものだからといって、勝負を投げ出すわけにはいかないのだ。
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