第255話◇フェニクスパーティーVSエリーパーティー2




『全天祭典競技第二段階「赤組」第一回戦! フェニクスパーティー対エリーパーティー――開始!』


 アタシのパーティーの役割分担は、単純明快。

 双子の【黒魔導士】ライナーとライアンは黒魔法によるサポート。

 同じ地域出身の【白魔導士】ケントとジャンは白魔法によるサポート。

 そして【絶世の勇者】エリーことアタシが、敵を全滅させる。


 試合開始の合図と共に、敵味方全員が動き出す。

 まずは、アタシたちのパーティーの定番の型。


「エリー様に疾風の如き速さを! 速度上昇クイック!」

「エリー様に迅雷の如き速さを! 速度上昇クイック!」 


 白魔法による後押しを得る。


「我が魔法、泥に足を取られる如きものと知れ! 速度低下クイックダウン!」

「我が魔法、岩を背に負うに等しいものと知れ! 速度低下クイックダウン!」


 【黒魔導士】の二人が狙うのは、最も魔法耐性の低い【戦士】アルバ。

 アタシは風の精霊術による加速を行いながら、あくまで地を蹴って駆ける。


 ――【炎の勇者】フェニクスに向かって。


『――! おおぉっとぉ! 開始早々エリー選手が疾走! それもなんと、敵リーダーフェニクス選手に向かっているようです! なんと大胆な動きでしょうか!』


 さぁ、アナタたちはどうするわけ?

 フェニクスパーティーの動きは、想定していたものの内――最高のものだった。


「てめぇらの狙いなんざ、お見通しなんだよ」


 アルバは動かない。自身に速度低下が掛かる中では、自慢の俊敏性を活かせないと即座に判断。

 だが彼は【戦士】でありながら不動のまま攻撃する手段を有している。

 伸縮自在の魔法剣。


 『難攻不落の魔王城』第十層戦にて見せたのと同じ。

 切っ先を対象に向け、魔法剣を起動する。

 黒魔法は武器には掛けられないから、伸びる刺突は普段通りの速度で敵へ向かうのだ。


 狙いは――アタシの下僕イヌたち。


「九十五位に相応しい遣い手であるならば、相応の対処をするまでです」


 【狩人】リリーが連続して矢を射る。

 それらは緩やかな弧を描きながら、中空を飛ぶ。曲射だ。


 アタシの真横を通り抜けようとすれば、風魔法の影響を受けて矢は落とされる。

 だから、アタシが矢の軌道を逸らそうとした時にその分魔力を必要とする絶妙な距離を空けているわけだ。


 【聖騎士】ラークは、動きの遅くなっているアルバを庇うように前に出る。


 【氷の勇者】ベーラの担当は、真上か。


「――『凍剣雨とうけんう』」


 先端の鋭利な、氷の棒だ。

 それが名の通り、雨のように降り注ぐ。


 サポート【役職ジョブ】は素の耐久性が並以下であるし、魔法の発動・維持には集中を要する。

 攻撃としても妨害としても機能する、良い手だ。


 ベーラだけでなく、四人共素晴らしい。憎らしいくらいに素晴らしいではないか。


『なんと! フェニクスパーティーは敵サポートメンバーから対処する作戦のようです! 「難攻不落の魔王城」において【隻角の闇魔道士】レメゲトンに苦しめられたことで、サポート【役職ジョブ】への認識が変わったということでしょうか!』


 アルバは正面、リリーは側面、そしてベーラは上方。

 それぞれ異なる方向から、アタシの下僕イヌたちを狙う攻撃。

 全員が【白魔導士】【黒魔導士】を、早急に対処せねばならない敵として見ている。


 狩れるところから狩る、というような意識とはまた別。

 放置しては脅威だからこそ早期に対処するという、確固たる方針が窺えた。


 人間、口では殊勝なことをいくらでも言えるのだ。見るべきは行動。

 だが、フェニクスパーティーは実際に変わった。

 サポート【役職ジョブ】を見下す意識があれば、こんな対応は出来ない。


 思わずアタシの口角が上がる。


「素敵じゃないの」


 【炎の勇者】フェニクスは聖剣を抜き放ち、アタシを待ち構える。

 とても落ち着いているのに、彼からは燃え盛る炎のような圧を感じた。


 アタシはまずアルバの魔法剣に対処。

 伸びる刀身の上から、空気のかすがいを打ち込む。


 二本の釘の頂点を棒で繋いだような形状をしているそれを、蛇腹状になっている魔法剣の繋ぎ目に向かって落とし、地面に固定。

 これで伸び縮みの邪魔をする。


「チィッ……!」


 忌々しげに舌打ちする音が聞こえた。アルバだろう。


『こ、これは!? アルバ選手の魔法剣が、まるで見えない何かに押さえつけられるようにして地面に落下! どうやらこれ以上動かせないようです!』


「飛ぶわ」


 短いアタシの言葉に、後方の四人は即座に応えた。


「ハッ!」


 わざわざ足を使って走ったのは、白魔法の効力を観客に示すため。

 生で観るのは、また動画と違った驚きがあるだろう。

 白魔法を受けたアタシの疾走は、常人の感覚からは信じられぬほどに速かった筈だ。


 アタシは【勇者】であり、自身の風魔法による加速も行っていたが、それはまた別の話。

 白魔法が発動し、アタシが速くなったのは事実。

 これが見せられれば充分。


 風魔法によって飛行し、フェニクスに正面から近づいていく。

 風刃を放って、【炎の勇者】以外の四人を牽制するのも忘れない。


 細身の片手剣型の聖剣を抜き、フェニクスに斬りかかる。

 瞬きほどの時間で、数合すうごう


 金属同士のぶつかり合う音。

 炎が唸りを上げ、風が吹き荒ぶ。


 斜めに切り下げる一撃は難なく受け止められ、弾かれる力を利用しつつ低い姿勢から横薙ぎを放つも、軽く後ろに跳ねることで避けられてしまう。

 だがそれこそが狙い。


 丁度彼が着地したその位置を狙って、左右から挟みこむように風刃を放っていたのだ。

 タイミング的に屈むのは間に合わない。間に合っても、アタシ自身の追撃を回避するのが難しくなってしまう。


 彼はどういうわけか、こちらに剣の腹を見せるように構える。

 違う。


 彼から見て右の風刃に切っ先を、左の風刃に柄頭を向けているのだ。


 まさか――。

 そのまさかだった。


 甲高い音のあと、彼は無傷のまま立っている。

 目に見えぬ風刃をそれぞれ切っ先と柄頭で受け止めたのだ。


 僅かでもズレれば失敗し、風刃は彼の美しい顔を刻んだことだろう。

 なんという胆力。なんという魔力探知。なんという正確性。

 更には正面から迫るアタシの動きを、生み出した炎をけしかけることで阻害。


『め、め、目にも留まらぬ攻防!! 風魔法によって飛行するエリー選手から放たれる、常識を無視した自在な連撃! これをフェニクス選手、まるで読んでいたかのように捌き切ります! そして放たれる炎撃! エリー選手は華麗にこれを回避! たった一瞬にどれだけの情報を込めるのか! 【勇者】同士の戦いはこれが恐ろしい!』


 ――数ヶ月前とは、まるで別人じゃない。


 炎の精霊術が凄まじいこともあって剣の腕が目立つ【勇者】ではなかったが、それでも彼の剣技は充分卓越していた。

 それが、更に上の段階に到達している。


 レイドに臨む冒険者たちと訓練したというから、その成果か。

 あのメンバーの中には剣士職にて世界五指に数えられる【サムライ】マサムネと【戦士】ハミルがいた。


 ――何か掴んだのかしら。


 アタシは炎の波を迂回しながら、次なる攻撃に移る。

 目の前の敵に集中しながら、アタシは戦場全体を俯瞰する。


 アルバの魔法剣は封じた。

 ラークは彼を守っている。

 【白魔導士】【黒魔導士】を襲うのは、氷の剣による雨と、曲線を描きながら迫る矢の群れ。


 アタシへの白魔法は解かせた。

 世間には知られていないが、アタシと下僕イヌたちは互いに支え合っている。

 彼らが白魔法黒魔法で支援するように、アタシも風魔法で彼らをサポートしている。


 攻撃を予期すれば、それを風圧で知らせるのだ。

 額を狙う攻撃があれば、そこを風で撫でてやる。

 常人に回避不能な攻撃であっても、【勇者】の感知能力が合わされば別。


 普段の何倍も早く回避行動に移れるのだから、それも当然。

 もちろん、アタシが危機を知らせても避けるのは彼ら自身。

 故にうちの四人は、サポート【役職ジョブ】とは思えぬほどに体を鍛えている。


 ケントとジャンの【白魔導士】コンビが叫ぶ。


速度上昇クイック!」

思考力上昇インテリジェンス!」


 四人それぞれの速さと思考力を強化。

 降り注ぐ氷の剣を、彼らは機敏に回避していく。


 高さもあってか、剣は地面に跳ねることなくザクザク突き刺さる。


『サポート【役職ジョブ】とは思えぬ機敏な動きです! エリーパーティーの四人は容姿だけでなくその鍛え上げられた肉体も有名ですが――おぉっと! 来ました! スーツを! 今! 脱ぎました!』 


 ちなみに今日の実況者は女性だ。


 彼女の言うように、四人はスーツを脱ぐ。だが脱ぎ捨てるのではない。ただ脱ぐ。

 冒険者の装備なのだから、ただのスーツではないのだ。


「フッ!」


 彼らは闘牛士のようにスーツを構え、リリーによる矢がスーツに触れた瞬間払うように動かす。

 矢を巻き取るようにして、威力を殺したのだ。


『き、決まったぁ! そうですそうなのです四人の着用するスーツは防刃仕様! 普段は身を守る鎧としても機能し、必要に応じて今のように盾のように扱うこともあります!』


 とはいえ、タイミングはかなりシビアだ。

 これもまた、白魔法による強化に加え、アタシの風魔法が合わさったからこそ可能な技術。


「……なるほど」


 自慢の矢を防がれたリリーが、僅かに目を細める。


理解しました、、、、、、


 その声はベーラから放たれた。


 彼女から放たれたのは声だけではない。

 魔力もだ。


 アタシは即座に意図を理解する。

 氷壁だ。氷の壁を出そうとしている。

 アタシと後方の四人の間に物理的な障壁を設けようというのだ。


 白黒魔法を脅威と思っていない現代の冒険者業界では滅多に見られないが、対策としては素晴らしい。

 何故なら、白黒魔法も攻撃魔法と同じく対象に当てなければ機能しないのだから。


 不可視なだけで、やってることは同じ。

 だからルート上に邪魔ものがあれば、不可視の魔法も迂回するしかない。

 氷壁などで向こう側が見えなくなれば当てるのは格段に難しくなるだろう。


 ベーラの素晴らしいところは、それだけではない。

 氷壁が完成すれば、アタシから下僕達へのサポートも邪魔出来るのだ。

 風魔法で警戒を促すにも、氷壁を避けねばならない。


 ――見事だわ、本当に。


 だからこそ、アタシもそれを想定していた。

 ベーラの小さな唇が動く。


「『氷壁』」


「どうぞ?」


 ――代わりにアタシは、アナタを攻めるわね。




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