第253話◇竜の背に乗って




 全天祭典競技の第二段階。

 百組を四つのグループに分け、トーナメントが行われる。


 赤青白黒の各グループはそれぞれ、東西南北の魔王城がある街へ赴き、戦う。

 最後に残った四パーティーは、『難攻不落の魔王城』がある街に集合、そして――伝説の強者たちに挑むのだ。


 各グループ、最初の試合の日が迫っている。

 僕らレイスパーティーは、黒組。北の魔王城のある街へ向かうわけだ。


 試合当日……だとギリギリ過ぎるが、まぁ前日くらいについていれば問題はない。

 けれど、見れるだけの試合を直接見ておきたかった僕は、早めに現地入りすることを提案。


 幸い、みんな賛成してくれた。


 日程と各都市の距離を考えると、自分の組以外の試合を直接目にするのは難しい。

 こちらは、配信で我慢するしかないだろう。


 さて、出発当日の昼である。


 ミラさんやカシュとは、朝話した。

 二人とも応援してくれたが、少し寂しそうに見えたのは僕の錯覚か。

 見送りに来ると言ってくれたのだが、二人にも仕事がある。やんわりとお断りした。


 ちなみに、カシュは今ミラさんの臨時秘書を務めている。

 なんだかんだと街を離れることの多い僕だが、魔王城はきちんとカシュを雇ってくれているし、カシュは大変に働き者だし、お給料もきちんと支払われている。


 待ち合わせ場所に行くと、鬼の【白魔導士】ヨスくんと、ハーフサイクロプスの【鉱夫】メラニアさんは先についていた。


 わけあって街の入口のすぐ外、開けた土地の一角で集合することにしていたのだ。


「おはようございます、レメさん」


「お、おはようっ、ございます……」


「うん、二人ともおはよう」


 挨拶を交わし、しばらく話していると、残る二人もやってきた。

 【湖の勇者】レイスくんと、【破壊者】フランさんだ。

 これで五人全員揃った。


「あ、あのぉ。本当に良かったんでしょうか、その……」


 おずおずと、メラニアさんが切り出す。


「いいんだよ」


 レイスくんが笑いながら言う。

 移動手段の話だ。


 様々な種族が共存する社会とはいえ、やはり様々なものが多数派に合わせて作られるものだ。

 道も、乗り物も、建物も。特別な配慮がなされたものもあるにはあるが、やはり数が少ない。


 メラニアさんと同じ馬車に乗って移動するなどは、非常に難しいのだ。

 彼女は巨人などが使う特別なルートを徒歩で行くと言っていたのだが、うちのリーダーがそれを止めた。


 みんなで一緒に移動出来るようにするから、大丈夫だと。


「で、でも、お、お金……」


 メラニアさんは申し訳なさそうだ。


「いいって」


 レイドでは、魔王様の父であるフェローさんの支援があった。彼が企画にレイスくんを誘ったわけで、資金面での援助も万全だったのだろう。

 しかし、今回は違う。


 他のパーティーと同じく、自分たちでお金をやりくりしながら活動しなければならない。

 レイドでの報酬がどれくらいだったかは分からないし訊かないが、今回の出費が痛いことは想像出来る。


「前も言ったけど、僕も払うよ」


 レイスくんは微妙な顔をしたが、僕が譲らないと見て頷いた。


「んー。じゃあ、五分の一頼もうかな」


 ずい、とフランさんが身を乗り出す。


「……わたしも払う」


「そんなとこまで、レメさんと張り合わなくていいって」


「払う」


「はいはい」


 僕とフランさんの言葉に、ヨスくんとメラニアさんも続いた。

 改めて、僕は言う。


「パーティーでの活動に必要なものは、みんなで負担した方がいいよ」


「そういうもの?」


「お金は大切なものだよ。だから扱いを誤ると、大切な人との関係が悪化する原因にもなる。親切心でも、君一人に負担を負わせたくはないと、君の仲間はそう考えている」


「……あはは。じゃあきっちり五等分にしよっか。レメさん以外まだ貧乏人だから、出世払いってことで」


 話がついたあたりで、特別な移動手段が到着。


 風が吹く。

 翼が空気を扇ぐ音。


 彼または彼女は僕らから離れた位置に着地しようとしているのに、体が吹き飛びかねない風圧を感じる。


「アルトリートの倅というのは、お前さんか」


 低く、落ち着いた声。どうやら、『彼』の方だったようだ。


「そうだよ、よろしく」


 ドラゴンだ。


 以前、フェニクスとリリーが僕の村まで急いだ時に乗ったのもドラゴンだが、あの時よりもずっと巨大な個体。


 どれくらい大きいかというと、ハーフとはいえ巨人に連なるメラニアさんが跨っても、まったく問題なさそうなくらいに大きい。

 鱗の色は緑。少し黒っぽいが、緑色に見える。


 人間と交流のあるドラゴンで、ここまでの巨体は世に数体といないだろう。

 冒険者のさがか、ダンジョンに出てきたらどう戦おう……なんて考えてしまう。


「……儂を見て、そのようなことを考える者は冒険者でも珍しいぞ」


「!」


 心を読まれた――わけではない筈だ。

 多分、僕がわかりやすい顔をしていたのだろう。


 宝石みたいな瞳が、ギロリと動いて僕らを一瞥する。


「人間は短い時間の中で在り様を変えるものだが、冒険者の常識も変わったようだ」


「いや、多分そんな変わってないよ」


「なら、お前が特別変わった勇者なのか」


 パーティー構成の話か。

 【勇者】の仲間として考えると、確かに僕ら四人は珍しい種族や【役職ジョブ】だ。


「どうかな」


「……ふっ。やつは面白い子を持ったな」


「それは俺じゃなくて父さんに言ってよ」


「そうしよう」


 ドラゴンさんが目を細めた。笑っている、のか。


 その後、僕らはいよいよ搭乗することに。

 縄梯子があったが、メラニアさんの手に乗せてもらうことで移動時間を省略。


 背中の上の空間は、客に合わせてカスタマイズ? するようだ。

 籠やちょっとした建造物でも大丈夫らしいが、僕らはパーティー全員で移動したかった。

 人間用の閉じた空間はその妨げになる。


 というわけで、木材で組まれた足場のみ。

 最後に跨ったメラニアさんと目線の高さは違うが、ちゃんと一緒にいる。


「準備は」


 ドラゴンさんの問い。


「いいよ」


 レイスくんが答えると、ドラゴンさんから凄まじい魔力が発せられる。


 風魔法だ。

 翼の動きと連動して、風魔法の後押しを得る。

 グンッ、と巨体が浮いたかと思うと、どんどん上昇。


 あっとういう間に、雲が隣に見える高さに。


 風や肌寒さを感じないのは、積荷、、を守ることにも風魔法を使っているから。


 飛ぶまでは体を固くしていたメラニアさんが、空からの景色に「わぁ」と漏らす。

 ヨスくんはまだ緊張が残っている様子。フランさんはいつも通りの無表情。

 リーダーのレイスくんは、楽しげに笑っている。


 旅立ちの感情は一様ではなくとも、場面を共有するというのは、とても重要な意味を持つと思う。

 特にこのパーティーは結成間もないのだ。


 常に一緒でなくていい。

 大事な瞬間を共に迎えられたという経験は、パーティーの糧となる。


 僕らはドラゴンさんの背の上で同じ時を過ごし、視線が交わっては、自然と微笑んだ。

 レイスパーティーはこれより、五人揃って旅に出る。



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