第224話◇最良を導き出せ
状況はこうだ。
開始時は五百人いた予選参加者も、今は残るところ十五人。
フェニクスパーティー、レイスパーティー、アストレアパーティーで綺麗に三等分出来る。
そしてフェニクスパーティーと、僕の所属するレイスパーティーが手を組んだ。
今現在、残る十五人は三つにグループ分け出来る。
【白魔導士】ヨス&【鉱夫】メラニア&【破壊者】フランVS騎士二名。
【湖の勇者】レイス&【炎の勇者】フェニクスVS【正義の天秤】アストレア&騎士二名。
そして、そこへ介入せんと急ぐ【黒魔導士】レメ&【戦士】アルバ&【聖騎士】ラーク&【狩人】リリー&【氷の勇者】ベーラ。
ちなみに、アストレアパーティーは全員が女性だった。
人数ではこちらが勝っている。
戦力も……と言いたいが、幾つか懸念点もあった。
フェニクスパーティーが万全でないこと。
アルバは利き腕、リリーは片足を負傷。ラークは剣を失いリリーの鉈で代用、ベーラさんは再生成に努めているが魔力消費が激しい。
更に騎士達の戦闘能力の高さ。
冒険者は特化型が多い。攻撃力特化、速度特化といったような感じ。
メンバーで足りないところを補うこともあれば、得意分野の重なったメンバーで組むこともある。
だが騎士は違う。
『イボット&ウルスラ選手、一撃一撃が大火力なフラン&メラニア選手の攻撃を躱す流すと華麗に捌いていますよー!』
全員が同じ騎士戦闘術を叩き込まれ、基本的には同じ装備で戦うのだ。
勇者パーティーは挑むダンジョン……つまり戦場を選べる。
しかし騎士は違う。
どんなタイプの犯罪者と、いつ戦いになるか分からないのだ。
だから、どんな相手との戦いにも対応した訓練を積む。
冒険者と違い視聴者を気にする必要もないので、臨機応変に対応する万能型が揃っているのだ。
しかも団長であるアストレアさんのパーティーとなれば、特に熟練した騎士が選出されていることだろう。
実際、リーダー以外の四人の騎士も素晴らしかった。
『エスター選手とオリビア選手も四大精霊契約者相手に巧みな剣捌きを披露! 特にフェニクス選手は聖剣でもなければ鍔迫り合いさえ許さず灼き斬ってしまうことで有名ですが、エスター選手は自身の剣を土魔法でコーティング! 土魔法の鞘が灼き斬られるまでのほんの僅かな接触で斬撃を流し、近距離での斬り合いを成立させています!』
『レイス選手の聖剣も凄いんですけどねー! 「水刃」を聖剣に纏わせてるんでしょうかー。先程オリビア選手の盾がスパッと真っ二つにされてしまいましたしー。しかしオリビア選手、それ以降はギリギリのところで回避していますねー! 見てるこっちがヒヤヒヤするギリギリっぷりですが、こうも上手く行っているということは、相手の動きを読み切っているのかー!?』
『それもあるでしょうが、アストレア選手の精霊術によるところが大きいでしょうね』
その通りだった。
彼女は『不可視の圧力』を使い分けている。
距離がある場合は、狙い撃ち。対象のいる限られた空間にのみ作用させている。
が、自分から近い場合は範囲攻撃。『不可視の圧力』を周囲に展開している形。
その上で、仲間には負荷を掛けぬよう適宜精霊術の作用しない隙間を用意し、仲間の動きに合わせてそれを動かしている。
フェニクスとレイスくんは高位の精霊術を相殺しながら、制限のない一流の騎士と切り結んでいる状況。
『レイス選手は繊細な技術と大胆な戦術を持ち合わせていますが、アストレア選手の精霊術を相殺しながら魔力を練っている状態では採れる択が限られます』
『なるほどー! 普段みたいに「次に何するか分からない」という強みが、今に限っては潰れているわけですねー』
得意の精霊術をほとんど封じられた状態で騎士に押し負けない二人も凄いし、そんな状態とはいえ四大精霊契約者とやり合う二人の騎士――エスター選手とオリビア選手――も凄い。
特にフェニクスの剣技なんて普段中々見られないので、お客さんは沸いていた。
とはいえこれも長引きすぎると不安にさせてしまうだろうが、その心配はない。
僕らが到着したのだ、状況は嫌でも動く。
「エスター」
「はっ……!」
生真面目そうな騎士エスターさんが、フェニクスから離れる動きを見せる。
彼女の意図を読んだフェニクスは追おうとするが、これをアストレアさんが阻止。
「お相手願えるか、フェニクス殿」
「……こちらから伺おうと思っていたところです」
フェニクスとアストレアさんの聖剣がぶつかり合う。
親友が一瞬こちらを見た……気がした。
――大丈夫。
「みんな」
「わァってるっつの……!」
アルバが叫び、他のみんなは無言で動き出す。
【氷の勇者】ベーラさんが砕いた氷を、雪のように降らせる。
アストレアさんは一瞬怪訝そうな顔をしたが、戦闘を続行。
こちらに向かってくるエスター選手の足も止まらない。
――よし、確認出来た。
【狩人】リリーを見ると、彼女は小さく頷いた。
【聖騎士】ラークの背後から、エスター選手を狙って矢を射掛けるリリー。
同時に【戦士】アルバの『伸びる』魔法剣が半円を描くようにしてエスター選手を狙う。
しかし矢も魔法剣も、『不可視の圧力』によって地面に叩きつけられた。
「チィ……ッ!」
アルバの体勢が崩れたのを確認し、エスター選手がグッっと加速。
負傷者込みとはいえ、ここには五人もいるのだ。
自分に対応出来る人間は、一人でも少ない方がいい。
「――固有戦闘技の使用を許可する」
アストレアさんが何事か呟いた、その瞬間。
四人の動きが変わった。
イボット選手は剣と盾を捨て、背中に差してあった双剣を抜く。
ウルスラ選手も同様に武器を捨てたが、彼女は徒手空拳のまま【破壊者】フランさんに対峙。
オリビア選手は剣を放り、ナイフを逆手に構える。
エスター選手は武装こそ変わらないが、僕らの背後に土の壁が展開された。
「これは……」
ベーラさんが驚いたように呟く。
それも頷けるというもの。
エスター選手の土魔法は補助どころか、それを軸に戦えるほどのレベルだった。
元々の【
僕は
黒魔法を防ぐために魔力を放出している間は、大規模な魔法は使えないだろう。
「……あぁ、みんな騎士系ってわけにはいかないもんね」
ラークは納得したように呟きながら、エスター選手の剣を盾で受け流す。
騎士団とは言うが、戦闘員全てを騎士系の【
可能だとしても、好ましくない。
騎士系は鎧を纏い、盾を持った戦闘を得意とする【
それで対応出来る犯罪者ばかりではないだろうし、騎士団は戦闘職の受け皿という面もあるのだ。
みんながみんな冒険者になりたいわけでも、冒険者で成功出来るわけでもない。
騎士団は様々な【
おそらく、それでいて元々の【
状況に応じて万能型と特化型を使い分けられるのが、現代の騎士というわけか。
「あっ……!?」
【鉱夫】持ちのメラニアさんから悲鳴に似た声が上がる。
双剣遣いのイボット選手はおそらく元々は戦士系持ち。先程までとは比にならない速度でメラニアさんを翻弄し、双剣で切りつけていく。
ついにメラニアさんは膝をついてしまった。立っていられなくなったのだ。
あちらには『不可視の圧力』が及んでいないのが救いか。
――もう少し、あと少し……。
仲間が傷つく姿は見たくないが、まだ僅かな時が必要だった。
武器を捨て素手で構えるウルスラ選手は武闘家系か。フランさんの拳を受け止めることなく、その力を利用し投げ飛ばす。
オリビア選手は徹底的にレイスくんと切り結ぶことを避け、背後をとるなどして刺激し続ける。
どちらかというと、食い止めるための動きか。
「お姉さん速いね。盗賊? 暗殺者?」
レイスくんは相手の動きを見ていく中で先を読む能力に長けるので、その動きがまったく別物に変わると厄介だろう。
「堅実な動き……良い盾役ですね」
エスター選手の呟きに、ラークは「どうも」と短く返す。
「ですが堅実故に――読みやすい」
ラークが構える盾の真下から、土の塊が突き出る。
「――――」
それによってラークの盾が空中に舞い上げられてしまった。
ラークはエスター選手の猛攻を上手く防いでいたが、如何せんリリーから借りた鉈では長さが足りない。
「貴方が剣を失っていなければ、もっとよい戦いが出来ていたでしょうが」
――よし……!
僕は合図を送るべく、聖剣を抜き放ち、天へと掲げた。
レイスパーティーは元々、これの指す意味を知っている。フェニクスパーティーはここまでの移動中に伝えていたし、フェニクスのやつにも先程離脱する際に言っておいた。
それから、複数のことが起きた。
――一つ目。
土の塊を迂回してラークを斬らんと迫ったエスター選手は、逆に彼に斬り裂かれる。
魔力粒子が散った。
「なっ――」
彼女の顔に驚愕が浮かぶ。タイミング的に、彼が斬撃を繰り出しても自分には届かない計算だったのだろう。
それがズレたのは、簡単。
鉈の先から氷の刃を生やすことで、刀身を普段の大剣と同じにしたのだ。
「読んでくれてどうもありがとう」
ラークは堅実な戦いがウリ。
先程まで彼は、大剣を鉈で代用することで思うように戦えないながら、どうにか頑張る【聖騎士】だった。
ずっとそんな動きを見せ、読み切ったと思わせたのだ。
エスター選手が大胆な動きに出たところで、ベーラさんの氷による刀身の延長を行った。
これまでの彼なら、最初からそうして戦っていた筈。
一時的に合理的でない動きをすることで、結果的に相手の読みを外すことが出来た。
「僕が一人だったら、もっといい戦いが出来てたかもね」
ラークの言う通り、一対一で落ち着いて戦っていればどうなっていたかは分からない。
しかしエスター選手は僕の黒魔法を、リリーの矢を、アルバの魔法剣の戻りを、ベーラさんの氷魔法による攻撃を警戒していたのだ。
「くっ……まだ終わりでは――」
傷は深いが、エスター選手はまだ諦めていなかった。
「終わりだっつの」
そんな彼女の腹部から、アルバの魔法剣が突き出る。
アルバの初撃、『不可視の圧力』によって地面に縫い留められた伸びる斬撃は、失敗に終わったのではない。
元々の予定に合わせて伸び続けていた。
アルバの魔法剣は軌道を事前に設定する。再度伸ばすには一度長さを戻さなければならない。
そのルールは有名だ。
だからこそ、『不可視の圧力』によって地面に叩きつけられ、戻るにも時間が掛かるだろう状態になったことで、すぐには魔法剣による攻撃はないだろうと考えた。
実際は地面に落ちた魔法剣の切っ先は地中を通って伸び続け、エスター選手に向かっていたのだ。
事前に飛び出す地点は決められていたので、後は軽度の『混乱』で彼女の立ち位置を調整。
ラークの一撃を受けた瞬間に
エスター選手が退場する。
――二つ目。
「……おや、これは珍しい」
イボット選手の双剣を掴む者がいた。
「――鬼の【白魔導士】とは」
血を滴らせながらも、白髪の青年は双剣を手放さない。
風が吹き、ぶわりと彼の前髪が浮く。
額の両端から、小さな角が生えていた。
そう、【白魔導士】ヨスくんの種族は鬼だったのだ。
鬼に詳しかったりフルカスさんによく反応していたのは、そういうわけだったのである。
剣を掲げる合図は、ヨスくんに対しては『鬼の力を使ってほしい』というメッセージ。
「戦闘系でない鬼はおかしいですか」
「いえ、平和で結構なことかと。ですが、そう長く私を止められないでしょう」
「でしょうね、その必要はありませんから」
「? ――――っ」
――届いた。
警戒されぬよう魔力を糸のように細くしながら伸ばし、イボット選手に触れさせた。
彼女の動きが、止まる。
「メラニアさん、立てますか」
ヨスくんがイボット選手から離れながら言う。
「う、うん……ヨス……くんが治してくれたから」
「では、お願いします」
「え、えい……っ!」
思考に『空白』を差し込まれた騎士は、立ち上がったメラニアさんによる棍棒の振り下ろしを避けることも出来ずに――退場した。
――三つ目。
「……どんどん速く重くなる、末恐ろしいな」
敵を破壊することにおいて尋常ではない才を発揮する特殊【
まともにやりあっては、鍛えた騎士だろうがひとたまりもない。
だからこそ、ウルスラ選手は受け流すことや回避することに意識を集中させていた。
その卓越した技量は驚嘆に値するが、それも唐突に終わりを迎える。
フランさんの拳を受け流そうとしたウルスラさんの両腕が、ひしゃげる。
腕が狙いと違う動きをした所為で、フランさんの拳を受け流せずに潰れたのだ。
「感覚を乱された……? 【黒魔導士】レメか、黒魔法でここまで――」
彼女の言葉は最後まで紡がれることなく、フランさんの巨腕によって潰える。
――四つ目。
「……いたいけな少年の背後をうろちょろし続けるって、お姉さん怪しすぎない? 騎士団に通報しちゃおっかな~」
「大丈夫ですよ、お姉さんが騎士ですからね」
「あはは、何も安心出来ないなぁ」
ぴくっとオリビア選手の体が震えたかと思うと動きが止まり、そこに――矢が降り注ぐ。
ベーラさんの雪もどきで確認したのは、騎士たちの安全地帯の確認。
『不可視の圧力』の効果範囲とそれ以外では、雪もどきの落下速度が違う。
結果、安全地帯は騎士を円筒で囲むようなものと判明。
つまり、頭上からの攻撃ならばアストレアさんの精霊術の影響を受けずに、騎士を直接狙えるのだ。
しかし騎士達は絶え間なく動くので、これが一番大変だった。
こちらも『空白』を挟み込んだところに、リリーが曲射を披露。
目標過たず、騎士をハリネズミに変えた。
背中に刺さった無数の矢に
――五つ目、こちらは一筋縄ではいかない。
オリビア選手の
彼女の体が消えると同時、レイスくんの聖剣から放たれた『水刃』はアストレアさんへと向かう。
ベーラさんとフランさんも既に走り出していた。
僕はオリビア選手にやったのと同じように黒魔法を放ち、リリーも同様に矢を放った。
火精霊の加護を受けた聖剣と打ち合っていた、アストレアさんは――。
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