第89話 親切な申し出

「しかしキミの仲間はそうは感じていないようだよ」

ゲネオスが言った。

確かに後ろのオークは目もうつろで若干挙動不審気味だ。

オークをそれぞれ観察してみると、

・長衣にメイスのオーク(ほぼ間違いなく僧侶)

・ローブにスタッフを携えたオーク(ほぼ間違いなく魔法使い)

・オーガーを連れた女オーク(職業不詳)

そして、リーダー格のオークはおそらく戦士か勇者。

この中から次のエサになるのは誰だろうか?


ここでマスキロが割って入ってきた。

「お前たちの仕事はオーガーを依頼主まで届けることだな?」

「はい、そうです」

「ふむ、どうだ、その仕事変わってやろうか?」

「え?」

「分からぬか? ワシらがそのオーガーを運んでやろうと言うのじゃ」

リーダー格のオーク以外の表情がパッと明るくなった。

「おぬしらも4人パーティ、ワシらも同じじゃ。職業も性別の構成もほぼ同じじゃろう。その女は知らぬが」

「彼女は武闘家です。私が勇者です」

なるほど。武闘家であれば武器は不要だ。むしろ武闘家は武器を持った方が攻撃力が下がると言われている。

「イマミアンドはここから遠いのだろう? お主たちが帰社する頃にはとっくに荷物は依頼主に届けられておる。誰も人に任せてきたなどとは分かるまい」

リーダー格のオークは考え込んでいる。

「おぬしもエサにはなりたくないだろう。次に順番が回ってこないと言えるのか?」

「え? それは大丈夫です。誰が食料になるかは私が決めていましたし」

「三人がかりでこられたらおぬし一人では勝てぬぞ」

マスキロは顎をしゃくって後ろの三人のオークを示した。

「え、まさかそんなことは……」

リーダー格のオークが後ろを振り返ると、マスキロの話にうんうんとうなずいていたオークたちが、スッと視線を外した。

リーダー格のオークが再びこちらに向き直ってこう言った。

「分かりました。お願いします」


「マスキロ、どういうことだ?」

オレたちはオークから少し離れて、彼らには聞こえないようボリュームを絞った声でマスキロに尋ねた。

「どうもワシたちが向かう先にはモンスターが集結しているようじゃ。それならば運び屋をかたって行けば、不要の戦いが避けられるじゃろう」

「なるほど!」


オーガーに繋いだ鎖はオレが引き継いだ。

間近で見ると、その大きさに圧倒される。

身長はオレよりも頭三つ分は大きい。

腕や足の太さも異常だ。どんなに鍛え上げたマッチョの人間でもここまではならない。オレは建物を支える柱を思い出した。

オーガーは武器を携えていないが、素手だけでも恐ろしい殺傷力がありそうだ。こいつに武器を与えるとどうなるのだろうか?

「大丈夫なのか?」

「お腹が膨れている限りは大丈夫です。昨日食料を与えたので、明後日まではもつでしょう」

「その後食料を与えなければどうなる?」

「さあ、試したことがないので分かりませんが、多分自分の近くにあるものを食料と判断して、それを食べようとするのではないでしょうか」

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