第78話 オアシスの発見
陥落したノトスを逃れた人々は山の城を目指して砂漠を南に進んだ。
十分な装備を持たぬまま街を飛び出した人々が大半である。
人々の歩みは遅かった。
かと言って少しでも歩を緩めればモンスターに追い付かれるかもしれない。
人々は砂漠の熱と疲労とで徐々に衰弱していった。
「王妃さま、お城はまだ遠いのでしょうか?」
「この砂漠のさらに向こうにある山の中と訊いています
「山……。まだ岩と砂しか見えません」
年寄りや身体の弱い者の中には動けなくなる者もいた。
動けなくなれば置いていくしかない。
父を亡くしたばかりのアクリスは、集団から少し離れて、ただひたすらに歩き続けていた。
アクリス自身も疲労と喉の渇きとで頭は朦朧としていたが、その結果何も考えずに歩くことができたのは、むしろありがたかった。
「この先に山の城があると言うけれど、まだ何も見えない」
アクリスは立ち止まって、遠くを見回した。
せいぜい岩山が見えるほかは、地平線の上は全て空で占められていた。
「あれ? あそこだけ空気の色が違う」
ある方向の空だけ色がくすんでいた。そしてその色は徐々に濃くなってくる。
集団の中の人々もざわめき始めた。
砂漠の方まで来たことのある人たちは何やら大声で叫んでいる。
難民の群れを砂嵐が襲った。
アクリスは砂漠の上にうつ伏せになった状態で目を覚ました。
強力な砂嵐は彼女を砂の中に埋めんばかりではあったが、彼女の着ていた服は顔や頭も含め、全身を包み隠すことができた。
エルフの服が彼女を砂嵐から守ったのだ
しかしアクリスは疲労で起き上がることができず、目が覚めたときの姿勢で動けずにいた。
そのときアクリスの目の前をコオロギが通り過ぎた。
このような砂漠にいるような昆虫ではなかったが、このときのアクリスはそれを疑問に思う力も残されていない。
コオロギはしばらく進むと、こちらに向き直って静止した。
アクリスが何の反応も示さないと、また元の方向に向けて歩き始め、しばらく進むとまたこちらを振り返った。
「ひょっとして、私に付いてこいと?」
難民の集団がどこにいるのかは見えない。
アクリスはたった一人、力を振り絞って立ち上がった。
そして、虫が歩くようなスピードで、よろよろとコオロギを追いかけた。
いつしかアクリスは砂丘に囲まれていた。
コオロギはその砂丘の合間を進んでいく。
そしてある砂丘を回り込むと、地面がキラキラ光る場所に出た。
目を凝らしてその光の源を見ると、大きな湖だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます