第76話 築城

ノトスに到着した直後は周囲の地理が全く分からなかった。

父さまは探検隊の一員となり、日々周辺の探索を行った。

少しずつ探索の範囲を広げ、地図の空白を着実に埋めていった。

その頃父さまはほとんど家にいなかった。

やがて内陸の遥か南に山々を発見し、建築資材となる石材が確保できるようになった。

王の力を借りて、石材は続々とノトスの港に運び込まれた。

ノトスの港は徐々に建物が増え、やがてノトスの街になった。


その頃から築城が始まった。

モンスターの攻撃にも耐え得る城だ。

父さまも築城に関わることが多くなり、その頃は以前よりアクリスと共に過ごす時間が長くなった。

アクリスが100歳を超える頃には、王の居城も完成した。

「遂にお城ができましたね」

アクリスがねぎらいの言葉を掛けると、父さまが答えた。

「ああ、けれど南の方でも山城を作ろうとしているんだ」

「え? あんなに立派なお城ができたのに」

「ああ、もしものときの備えは必要だ。私たちも船を作り続けたからここまで来ることができた」

「また、この地を離れないといけなくなるのでしょうか?」

その問いに答えはなかった。


父さまは南の山々に向かって旅立っていった。

ノトスへたまの用事があると、家に戻ってアクリスと共に過ごした。

しかし何年も家を空けることもあった。

エルフは時間を気にしない。時間は無限にある。

しかしアクリスの場合、姿形は変わらなくとも確実に死へと近付いている。

あまりにも見た目が少女のまま変わらないので、街の人々はアクリスをエルフとして扱った。

しかし人間の母の血を引く以上、逃れられない宿命がある。

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