第49話 魔王様、勇者PTたちと花火大会をされる②
寺にある大きな駐車場へ、懐中電灯一つを持ち皆で降りていく。
寺の周辺には街頭のようなものは少なく、辛うじて古びた明りが一つだけついているのだが、それが何とも言えず雰囲気があって我は個人的には好きだ。
その古びた明りから左に曲がり、坂を上っていけば目的の駐車場である。
そもそも、我が家の寺は森に隣接しており、夜はとても暗いのだ。懐中電灯一つでも、ちょっとした肝試しが出来る広さである。
駐車場に到着すると、他の車が止まっていないのを確認し、開けた場所にて蝋燭に火をつける。この際、マッチで蝋燭をつけていると、何とも怪談をしたくなる雰囲気ではないか?
「100物語……」
「魔王、それは止めよう。寺でそれしたら洒落にならない」
「冗談ですよ」
クスクスと笑いマッチを消すと、あらかじめバケツに水を張って運んでもらったアキラにお礼を言い、火の消えたマッチをバケツに投げ入れた。
こうして蝋燭一本だけの明かりの中、各々花火を手に取ると、一人ずつが何をいう訳でもなく花火に火をつけて楽しみ始めた。
花火から出る火薬の香りは夏を感じさせるし、花火で辺りが明るく見える幻想的な風景は、オル・ディールでは見ることのなかった美しい光景だ。
まぁ、この異世界でも、今ではあらゆる公園などでは花火は禁止らしいし、花火が出来る場所と言うのはとても限られている訳だが。
「ねぇ魔王」
「なんです」
「ロケット花火、此処でやるの、ヤバくない?」
そう言って両親が用意してくれた花火の中にあるロケット花火を取り出して我に持ってくる魔法使い。確かに周囲は森に囲まれし場所でロケット花火は……山火事案件である。
「ロケット花火と空に打ち上げる系の花火は撤去しましょう」
「今度の学校での肝試しの時に持っていけいいね」
勇者がウッカリ火をつけてしまう前にと急いでいると、アキラも我たちに気が付きやってきた。そして打ち上げ花火やロケット花火をこの敷地内でする場合の危険性を教えると、一緒に打ち上げ花火やロケット花火を他の花火セットからも抜き取り、離れた個所に隔離する。
「ふう、危なかった」
「ええ、小雪がウッカリ火をつけようものなら山火事案件でしたね」
「でもこれだけあるなら、今度の学校での肝試しあとにさ、ロケット花火誰が時間ぎりぎりまで手で持って投げられるか競争しようぜ!」
「また危険な事を……」
「いいね、僕はやるよ」
「私は遠慮します。それでウッカリ火傷でもしようものなら、小雪にどれだけ笑われる事か」
勇者の事だから「魔王が火に負けるとか!!」と言って腹を抱えて笑いそうだ。
考えただけでも勇者の足元に爆竹を大量に投げつけたくなる。
「しかし、花火するなら小雪に浴衣でも来てもらえばよかったなぁ……」
「ピンクの作務衣じゃダメなんですか?」
「いや、確かに小雪はピンクの作務衣に合うけどさ……いや、赤も似合うけどさ」
「ユウ、男にとって浴衣姿のカワイイ女の子っていうのはね、眼福なんだよ」
「あぁ、なるほど。目の正月って奴ですね」
「「表現が爺臭いな」」
魔法使いとアキラ同時に突っ込まれたが、確かに好きな女性の浴衣姿と言うのは、実に良いものがある。
特に風呂上りに浴衣等、うなじが実に色気があり、美味しそうに見えるものだ。
更に言えば風呂上りの香りと言うのは実に良い。確かに目の正月になるのは間違いない。
そんな事を頷きながら同意し、我たちも花火大会に何事もなかったかのように参加すると、勇者と僧侶、そして武闘家が何やらコソコソしていると思った矢先、足元に三つのネズミ花火が飛んできた。
「うわっ!! 危ないなもう!」
「あち! あちち!!」
「驚いたか!」
「やりましたわ!」
「火傷しない程度の悪戯というと、やはりコレじゃな!!」
そう言ってハイタッチしているペッタン娘共……。
我は足元で未だ動き回るネズミ花火を踏みつけ火を消すと、三人がビクッとしてから我の方を見つめてきた。
蝋燭に照らされ見える我の表情を見た三人は、固まっている。
「危険なお遊びは為さらないように……良いですね?」
「「「……はい」」」
「……魔王の一喝」
「魔王、魔王! なぁなぁユウ! 煙玉で魔王の登場シーンとかやってみてくれよ!! 絶対似合うからさ!!」
「「「ブフゥ!!」」」
アキラからのまさかのリクエスト。
魔法使いは吹き出しはしなかったものの、口を押えて肩を振るえて笑っており、ペッタン娘たちは吹き出して笑っている。
アキラを除く四人は絶対馬鹿にしているな?
眉を寄せつつ、アキラから手渡された煙玉数個を見つめ、暫しネタを絞ると、静かに煙玉に火をつけ、少し離れた場所に四つ程なげて煙が上がるのを待つ。
その間に移動して、煙が濛々と上がったのを見計らってから、我は静かに煙の方に歩み始めた……。
・・・・・・
「よくぞ此処まで来たな勇者たちよ」
声色を変え、何時もより低いトーンで口にすると、四人がビクッとしたのが煙を通して伝わってきた。唯一アキラだけが腹を抱えて笑っているのが何ともミスマッチである。
「この魔王城まで来たことに対しては称賛いたしましょう」
「魔王!」
「しかし! あなた方が、善良な魔物たちに行った残虐行為については、決して許される事ではありません」
「何だと!?」
「どういうことじゃ!!」
我の言葉にノリなのか本気なのかは別として、反応を示した勇者と武闘家に対し、我は更に言葉を続けた。
「まず、メーロン王国の傍に存在していた魔物たちの村を襲ったことについての報告ですが……。人間が狩りをする力を失い、魔物たちが増えすぎた大型獣への対応をしているのを見て、あなた方勇者は何を行いましたか? 人間たちを守る為に大型獣を狩り、人間たちの狩場がこれ以上荒れないように働いていた魔物たちへした仕打ちを忘れたとは言わせませんよ」
「え、アレってそうだったの?」
「まさか、村長からは違う報告が……」
「結果、あなた方勇者一行はその村を襲い、生まれたばかりの赤子であろうと関係なく残虐致しました。これを鬼の所業と言わず何と言いましょう!」
「う……」
「た……確かにそうですわね」
「しかし、村人たちからは感謝されたのは間違いないぞ?」
「ちなみに、その村は後日、大型獣により村人の半分が食い殺されております。全く、魔物たちが人間の狩場を守る為に働いているなどと、少し考えればわかりそうなものを……食物連鎖を正しくするために働いていた魔物を残虐した罪です! 勇者一行と名乗りながら、なんと情けないことか!!」
「「「うぅ……っ」」」
勇者一行のオル・ディールでの活動に対し一喝する我。
魔王城に来た際に、一つずつ犯した罪を並べて説教してやりたかったのを、今この場でさせてもらう事にした。
「さらに、ソーケン村でも同じような事をしていますね?」
「あ、はい」
「間違いないです」
「申し訳ありませんでした」
「謝ってすむ問題ではありませんよ? ソーケン村には若い働き手が既におらず、街道さえも道として良いとは言えませんでした。国がお金を出せばなんとでもなる街道をです。その街道を、我が魔王軍の交通機関が綺麗に整備していたのですが、その整備している姿を見たあなた方は、魔物たちが村を襲いに来たのだと勘違いして、交通課で働いていた魔物たちを殺しましたね? 結局あなた方が交通課の魔物を倒したことで道路整備が大幅に遅れ、更にソーケン村で流行った流行り病を治すための医者の到着が遅れ、村は廃村となりました。これだけの事があったというのに、あなた方は正義面して……全く、何て情けないし、嘆かわしい事か!!」
「「「「本当に申し訳ありませんでした!!」」」」
「謝って済む問題ではないと初めに言ったでしょう! 魔物だけではなく、人間までも巻き込んだ大きな罪です! 勇者一行の行動が全て許されると思ったら、大間違いですよ!」
「「「「はい!!」」」」
「……魔王が勇者一行を諭すとか……早々見れる光景じゃないな」
既に煙から我が出てきているのに、勇者一行、しかも魔法使いですら膝をつき我に首を垂れている。
「色々言いたいこと、ご報告したいことは山ほどありますが、今後はもっと先を見通した目で物事と言うものを見て頂きたいですね。あなた方勇者の行動すべてが悪いとは言いません。ですが、あなた方が起こした魔物討伐に関しては、各エリアから苦情などが相次いでおります。行動を起こした先にある問題と言うものに、もう少し着目して行動するように。宜しいですね?」
「「「「解りました!」」」」
「取り合えず、今言える話は以上です。……煙も既に晴れていますし、頭をお上げになって宜しいですよ」
我の言葉に顔を上げ、互いにの顔を見合わせると苦笑いしている勇者一行。
我としては、長年言いたかった事が少しだけ言えて留飲が下がった。やはり言いたいことを黙っていると言うのは中々に堪えるものだ。
「中々に迫真の演技だったよ! ユウは演劇部に入れるんじゃないか!?」
「入りません」
事実を言っただけですし。
「でも、知らなかったで済まされる問題じゃなかったのだけは僕たちでも理解できたよ」
「それは良かったです。行動には責任が伴います。解りましたね? ペッタン娘達」
「はい!!」
「魔王様は聡明であらせられると、再確認いたしましたわ!」
「素晴らしい教えをありがとうごいますじゃ!」
「……なんか違う」
思わず呟いてしまったが、その後はアキラの天然さもあってネタとして流してくれたこともあり、最後まで花火大会を楽しむことが出来た。
そして、花火大会も終わり、アキラも家に戻った夜8時頃――僧侶と武闘家の両親が二人を迎えに来て、別れを惜しむように……いや、もう本当に別れを凄く惜しまれて、危うく我まで黒塗りベンツに押し込まれそうになったりもあったが、二人は家に帰っていった。
「……濃厚な数日間だったような気がします」
「そうだね。お疲れ様」
「暫くは心の平穏が訪れることを祈りますよ。夏休みも近いですしね」
「小学校最後の夏休みか……色々楽しみだねぇ」
こうして、我たちも寺に戻り、各々風呂に入ったりしてから眠りについた訳だが……。
――後日、双子たちが寺に暫く住むことになるとは、この時予想していなかった。
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