第45話 魔王様、肉食系女子の恐ろしさを感じられる
その夜――。
日暮れから始まった星見まつりの前に、提灯につけた蝋燭を一本ずつマッチで火をつけていると、双子たちは不思議そうに我がマッチを付けていく作業を見つめていた。
今時、マッチに火をつけれる子供は珍しいらしく、地区の決まりとしてマッチを使うものの、マッチに火をつけれる子供が我くらいしかいなかった。
ちなみに、勇者がマッチに火をつけようとすると、ひと箱折れてしまって勿体ない。
寺の娘なのに嘆かわしい事だ。今度シッカリと練習させる必要があるな。
「マッチって、お爺様しか使っている所を見たことありませんわ」
「ああ、そうじゃな。お爺様はマッチで葉巻を吸うからのう」
「そう言えばお二人のお爺様は極道でしたね……」
そう、この武闘家と僧侶の現世の祖父は極道だ。
以前聞いた話だと、とても恐ろしいご面相をしているのだと母が言っていた気がするが――。
「お爺様ったら、孫が双子の女の子だからって、色々過保護なのですよ?」
「学校の送り迎えは黒塗りの防弾ガラス仕様の特性なベンツじゃしのう」
「クラスの男子の住所は全て把握済みですわよね」
「変な虫がつかぬようにと手厚いことじゃ」
「そんなお爺様と対峙する気は私にはありませんよ」
サラリと断りを入れると、二人は頬を膨らませて我を見つめてきた。
ブツブツと「つれないお方じゃのう」だの「わたくしたち負けられませんわ」等聞こえるが、全てスルーだスルー。
我は何としても聖女を妻にし、この寺を守っていかねばならなぬのだ。
何が悲しくて寺の息子が極道の道に進まねばならないのか、却下だ却下。
オル・ディールでも魔王城を守る時、此処まで神経を使ったことはない。
この異世界は、家を、寺を守る為に、どこまで神経を削ぎ落さねばならないのだろうか。
何とも生きづらい異世界だ。
そんな事を思っていると、提灯全てに火がともり、それを見上げながらの星見となった。
他の幼子たちの面倒を見ていた魔法使いと勇者、そしてアキラも我の元にやってきて、我の周りは更に一層賑やかになったが――。
「流石に六年生にもなると、ウォーターガンで撃ち合いはする暇なかったなー」
「そう言えばそうですね。どうです? 明日当たり寺の駐車場で一つ、撃ち合いますか」
「いいね、僕も良いウォーターガンを手入れしたから試し撃ちしたいんだよね」
「私も参加するぞ! 大きいのは買ってもらえなかったが、今回は少しだけ大きめのウォーターガーンを爺様から買ってもらえたんだ!」
「おねだりした甲斐がありましたね」
「「ウォーターガン?」」
我たちの言葉に反応したのは武闘家と僧侶だ。
どうやら家では過保護に育っているらしい双子は、ウォーターガンと言う言葉を聞くこと自体が無かったのだろうか?
「チャカか」
「まぁ、水が弾のように飛びますの?」
「殺傷能力はどれくらいじゃ?」
「子供用でしたら、一人くらいが精々じゃありませんこと?」
……過保護に育てられたのだろうが、言う事が物騒だった。
というか僧侶、オル・ディールでは人の殺傷はとても罪深い事ではなかったのか?
この異世界で色々揉まれたんだろうか。やはり極道の世界とは恐ろしい場所だと再確認出来た瞬間だ。
「人を殺さない程度の威力ですよ。人を殺せるウォーターガンなんて、改造できるとは思いますが、流石にそこまではやりません」
「嬲り殺しですのね!」
「ほうほう!! 楽しそうじゃのう!!」
「……嬲り殺しもしません」
ハッキリとは言えなかったのは、随分昔、そう言う物を作って長谷川やその仲間たちに撃ちまくったことがあるからだが……そんな黒歴史の記憶には蓋をしよう。
今は人に向ける用ではないが、趣味で空き缶くらいは撃ち抜けるウォーターガンは作っている程度に抑えている。
たまに魔法使いと一緒に、寺の駐車場にて試し撃ちをする程度だ。
「ワシ達も仲間に入れて貰えんかのう?」
「わたくしも撃ってみたいですわ!」
「試し撃ちだけなら構いませんが、お二人に怪我をされたら大変なことになりそうなので見学でお願いします」
「確かに、皐月と葉月の家族が出てくると面倒だしね」
「ははは! 過保護な親なんだな!」
――ああ、過保護だとも。
武闘家と僧侶の実家が極道とは知らないアキラは、いい笑顔で双子の頭を撫でている。
色んな意味で、本当に知らないと言う事は罪な事だ。
「ついでですし、昼間にウォーターガン大会をして、夜にでも花火大会でもしますか」
「いいねソレ」
「皐月さんと葉月さんも明後日には帰ってしまわれますし、夏の思い出には丁度いいでしょう」
「ふむ……八月にまた来ようと思っていたが」
「まぁ、ダメですわお姉様。八月は、お寺はとてもお忙しいのよ?」
「それもそうじゃな」
「一年通して忙しいんですけどね」
「寺に休みなんて無いっての」
我と魔法使いのツッコミをスルーする双子。
そして我たちの言葉に「全くもってそうだな!」と頷きながら口にする勇者。
取り合えず言いたいことは一つ。勇者、忙しいと分かっているならもう少し手伝いをしろ。
「じゃあ、朝のうちに花火でも買ってくる?」
「そうしましょうか」
「俺、煙玉ってロマンがあるなって思うだよな。毎年アレを使うとテンション上がる!」
「わかる。こう……いかにも登場! っていう雰囲気を作れるのがいいよね」
「痺れるよな!」
「お兄ちゃんがやると洒落にならないけどね」
「小雪、何か仰いましたか?」
確かに以前、煙玉から我が登場シーンをやってみたら、勇者は我から目を離さないまま腰元を慌てて探り、「クソ、剣がない!」って叫んだことがあった。
勇者にとって、オル・ディールの世界で我と対峙した瞬間と言うのは、トラウマなのだろうな。いい機会だ、折角勇者たちが揃っているのだから、オル・ディールで対峙した時のように演出してみるか。
我とて折角のお遊びならば、本気で遊びたい時だってあるのだ。
「決まり! 各自花火をと着替えを持って昼には駐車場に集合な!」
「女子は服の中に水着を着ることも忘れないでくださいね」
「スケスケになっちゃうよ」
そう魔法使いが笑いながら口にした途端――。
「それってつまり」
「祐一郎もスケスケに……」
「お姉様! カメラの用意をしておかねばなりませんわ!!」
「水も滴るイイ男の股間など、早々おがめんからのう!!」
「スケスケになりませんし落ち着いてください変態共」
二人の頭に手刀を入れると、流石に痛がっていたが、最早一々気を遣う事すら馬鹿らしくなってきた。
我の裸を見るのが聖女ならば、立派になった逸物を見せるのは実に良い事だ。
しかしだ、この肉食獣たちにそんな姿を見せる気は微塵もない。
――下手をしたら此方が喰われかねんではいか。
オル・ディールの世界では、ここまで女性と言うものに危機感を覚えたことは一度たりともなかったが、この異世界では女と言うものは恐ろしい生き物だとつくづく体感した。
クラスの女子を始めとして、追い打ちをかけるように、この双子である。女社会とは恐ろしいものだな。
そんな事を思っている我の前ではというと――。
「明日が楽しみになった!! 俺も濡れていいように水着持っていこうかな!」
「アキラ! 私と対戦だ!」
「おう! 小雪と対戦だー!!」
「アキラ、僕とも対戦だー」
「改造ウォーターガンじゃなければするぞー!」
ハイタッチをし合う勇者と魔法使い、そしてアキラの姿が、とても平和過ぎて羨ましくなったのは、内緒にしておきたい……。
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