第37話 魔王様、修学旅行に行かれる①
男女戦争も無事終わり、一ヶ月が過ぎた。
その頃になると、六年生最後の修学旅行の話が出始める。
一泊二日の長崎への旅行、バスでの旅だ。
修学旅行のしおり作りにも明け暮れ、更に生徒会の仕事もあり帰宅が遅れることが多々あったが、小学校最後の旅行だからと祖父も父も許してくれたのはあり難い。
――とは言え、しっかりと勤めは果たさねば許されないのが寺である。
【
――自分が努めるべき努めを果たす、と言う事。
その教えに反抗もせずついていけるのは、やはり前世の記憶――魔王ダグラスであった頃の我がいるからだろう。
それでも、何処かでガス抜きをしなければ疲れは溜まる一方。ゆえに我はストレス発散に料理に走る。
だがコレも悪いばかりではない。
我の精神状態が料理の品数で解りやすいと言うメリットがあるらしく、大量の料理が出た次の日は少しだけ休むことが出来た。
バスに乗っての一泊二日。
行き先は長崎へと決まり、旅のしおりなるモノも出来上がった。
戦争体験者からの情報を聞けると言うのは、オル・ディールでは当たり前の事だったかもしれない。
当時、オル・ディールでは魔族との戦いの他、人間同士仲良く領地争いで戦争をよくしていたものだ。
人間同士が仲良く戦争している間は、魔族は大変平和だった。
それこそ、何時も人間同士で戦争をしていてくれと願うほどにだ。
「カステラ一番電話は二番」
「三時のオヤツは」
「それ以上はダメですよ」
某カステラのCMの歌を歌うアキラと魔法使い。
だが、長崎といえば確かにカステラだ。特にザラメのついたカステラは美味い。
「お土産はカステラですよね」
「カステラだな」
「カステラしかないよね、小雪の大好物だしね!」
――魔法使いの基準はいつでも勇者。
確かに勇者はカステラが好きだ、もみじまんじゅうも好きだ。
和菓子系は、勇者は何でも好きな気がするが、そこは触れないで置いた。
「小雪は羊羹も好きだろう?」
「一番はカステラだよ?」
「羊羹だって大好きだろう?」
「羊羹だって好きだけどカステラだよね?」
なにやら不毛な言い合いをする魔法使いとアキラ。
書類を纏めて机に置くと、我は大きく溜息を吐いた。
「小雪が一番好きなのは、私の手料理ですよ?」
「ぐっ」
「むっ」
「さ、不毛な争いに終止符がつかれました。早く帰りましょう」
こうして、とりあえず兄の料理は一番最高! と言う地位を得て帰宅し、旅のしおりで旅行に必要な道具を一式メモして母に手渡すと、歯ブラシなど旅行用を用意してくれることになった。
一泊二日、されど一泊二日。
小学校最後の旅行ともあり、思いで作りをシッカリしてくるようにと言われた。
後は写真を撮ってもらったら、出来上がったら沢山買うようにとも。
親の心理と言うヤツだろうが、我はあまり写真が好きではない。
――何となく、魂を抜かれそうな魔法でもついていそうな気がするだけだ。
別に弱点とかではなく、何となくそんな気がするだけ。
気のせいだと解ってはいるし、アキラが写真好きなので昔よりはだいぶ慣れた。
それでも苦手なのには変わりないが。
そんな時、しおりのスケジュールを見ていると、女子のお風呂が2回に分けられていることに気がついた。
特に気にする情報でもないと思いその日はスルーしたのだが、翌日大変なことになっていた。
「なんで女子だけ風呂が2回あんの?」
「なんでなんでー?」
一部の男子が暴走していた。
理由を知っていての暴走、女子はうざったそうな表情でその男子達を見ている。
「煩いな~! 別にいいじゃん2回でも!」
「男子に迷惑かかる訳じゃないじゃん!」
「アレだろ? 生理だろ!」
「やだー! 生理が移っちゃう~!」
「煩いキモイ男子!!」
あ、うん、確かに気持ち悪いな。
と言うか、生理が移る病であるなら世界中の男性は移っていると思うんだがな。
「生理ってアレだろー?」
「アレだよなー」
「やっぱなー!」
「移っちゃうよなー!!」
そう盛り上がりを見せたその時だった。
「え? 生理って大人へのステップでしょ? そうやってニヤニヤしながら話してるお前達ってまさか、まだ精通してないの? だから移るとかいってんの?」
魔法使いのその言葉に、クラス中の男子がほぼ同時に噴出した。
無論、我も噴出した。
無論女子は首を傾げて「精通?」 と言っている。
固まる男子、我は溜息を吐いて魔法使いを見た。
「お止めなさい、六年生にもなって精通してない男子がいるはずないでしょう?」
「いや、だって生理が移るっていうなら精通してないってことじゃないの?」
「確かに大人の階段をまだのぼってないのかも知れませんが……」
「そもそも女子に生理来るの当たり前の事じゃん、当たり前の事をニヤニヤしながら口にするって気持ち悪いよね~。第一お前らの母親とかも生理きてんのに移るってウケルんだけど」
魔法使いの爆弾発言に、最早ニヤニヤしていた男子はニヤニヤから一転、顔を真っ赤にさせて固まっている。
元が女性の魔法使い、この手の話は徹底的に潰したくなるのだろう。
「はい! 恵君に質問!」
「なに?」
「精通ってなんですか?」
女子の素直な、正に素直な質問に対し、魔法使いは――。
「帰ってお父さんに聞いたら一発だよ」
「じゃあ帰ったらお父さんに聞いてみよ」
「私はお兄ちゃんに聞いてみようかな」
魔法使いの一言に、素直な女子のご家庭では男性陣が説明しようにも説明しがたい事になるのは明白だなと思った。
一部の家庭では阿鼻叫喚の地獄絵図が出来るかもしれない。
「恵、もうその辺にしておけよ。デリケートな問題なんだしさ」
「ごめんごめん、ついお子様過ぎる男子がいてイジメたくなっちゃった」
「まぁ、確かにお子様な発言でしたね。生殖機能が備わる事は人間にとって当たり前の事ですし、なんら恥ずかしいことでは無いのですけどね」
「ユウもその辺にしとけ」
「申し訳ありません」
顔を真っ赤にしながら止めるアキラに諭され、我も魔法使いもこれ以上口にする事はなかった。
ただ言える事は――その後教室に微妙な空気が一日続いたくらいだろうか。
その日の夜、鐘打ち堂にて聖女と会話している時にその話題を出すと、聖女にも覚えがあるらしく「男子あるあるだね」と苦笑いをしていた。
「男子のあるあるですか」
「そうだよ、生理が移るとかまさにそう。中学にもなれば言わなくなるけど、小学生まではそう言うこと言っちゃうのよね」
「一部の恒例な通過儀礼なんでしょうかね」
「かも知れないね。でも恵ちゃんの返しは中々凄いと思う」
確かに我もアレは凄いと思う。
見た目が中性的な上にそう言う事を言われれば、男子にとっては大打撃に近い発言だっただろう。
我ですら噴出したのだから。
「女子をおちょくってたつもりが、とんでもない攻撃を別方向から受けた感じだろうね」
「でしょうねぇ……まぁ、女子からすればスッキリする内容だったでしょう」
「多分?」
「多分」
その後、長崎への修学旅行のおみやげは何が言いかとか、そう言う平和な話をして幸せな時間を過ごし、それから数日後――我は小学校六年生最後の修学旅行へと向かうことになる。
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