第二章 魔王様、小学校六年生をお過ごしになる

【閑話】

「勇者様! 魔王軍の攻撃が止まりません!」

「捕虜した者も逃げられました!」



 その言葉に私は陣地にいながら拳を握り締めた。



「忌々しい魔王め! 魔王軍の捕虜になっている者達の救出を急ぐんだ! 偵察部隊からの連絡は!?」

「複数の魔王軍が攻めてきているとの情報が!」

「陣を守る半分! 魔王軍を迎え撃て! 捕虜の救出は少数精鋭で向かうんだ!」



 指示をだしながら駆け回る仲間たちを見守るが、もう直ぐ勝敗を分ける時間が来てしまうっ!

 刻一刻と近付くタイムリミット……このままではまた負けてしまう。

 せめて捕虜された仲間を救出できれば引き分けで終わるだろう。



「魔法使い! 少数精鋭に加わって捕虜された仲間の救出を!」

「勇者の頼みじゃ断れないし、ついでに陣を奪ってこようか?」

「いや、まずは引き分けで終わらせたい。魔法使いまで捕虜された場合こちらの陣営の守りが弱くなってしまう」

「じゃあ捕虜された仲間だけでも……」



 そう魔法使いが口にしたその時だ。



「魔王軍が押し寄せてきたぞ――!!」

「陣地を守れ―――!!」



 偵察部隊からの叫び声に緊張が高まる……残った私達は限られた人数で魔王軍を迎え撃たなくてはならない!!

 雄たけびに近い声で合戦が始まる、だが魔王軍の数の暴力の前では成すすべも無く倒される我が軍に、陣地を守るべく私と魔法使いも戦いに加わった。



「魔王! 今度こそ私が勝つ!」

「おやおや、勇者が陣地を離れて宜しいのですか?」

「貴様と私の一騎打ちだ!」



 私と魔王の一騎打ちともなると、勇者陣営は奮い立つ!

 陣を取られまいと必死に抵抗し始めたのだ!



「魔王軍参謀! それ以上陣地には近寄らせないよ!」

「力は互角! 毎回お前と戦うのが楽しくて仕方ねぇよ!」



 魔法使いとアキラくんも互角の戦いを繰り広げる!

 負けた者たちはこの二つの戦いに歓声を上げるものがとても多いのも現状である。



 こうしてぶつかり合う魔王軍と勇者軍。

 激しい戦いで倒れる者も多数出る中―――……。




 キ―――ンコ―――ン……カ―――ンコ―――ン……。




 戦いの終了を告げる音が鳴り響いた瞬間。



陣破じんぱ!」

「勇者軍敗北!!」

「魔王軍の勝利だ―――!!」



 魔王軍からの勝利の雄たけびが成され、私はその場に崩れ落ちた……。




 多数の犠牲を払っても魔王軍に勝てない、だが仲間達は時間ギリギリまで耐え抜けたことに誇りを持っているようにも感じられる。



「あ――やっぱ魔王軍つえぇ」

「魔王軍反則だろ――!」

「勇者軍だって今回は良い所までいったじゃん!」

「オレだって今度は勇者ちゃんの陣営に入りてぇよ!」

「それな! でも祐一郎とアキラが強すぎるんだよぅ」



 地面に倒れている勇者軍の者達を魔王軍が腕を引っ張り起こしたりしながら、お互いの陣営の事を語り合う。

 私も魔王との戦いには本気を出さねばならない為、息は上がり汗を拭うと魔王からハンカチを手渡された。



「中々良い戦いでしたね」

「だが負けは負けだ。次こそは必ず勝つ!」

「魔王を倒せない勇者なんて……ただのゴミですからねぇ」



 クスクス笑う魔王の腕を叩くと、魔王はニヤッと笑って私の汗を乱暴にハンカチで拭った。

 こういう所を他の者たちが見ると仲の良い兄妹だと思われるが……まぁ実際仲は良い方だろう。

 ホッと息を吐いた時、魔王は両手をパンパンと鳴らし皆に教室に急いで戻るよう指示を出した。

 昼休みが終われば午後の授業だ。

 勝敗についての反省は後ですれば良い。

 皆は駆け足で教室に戻り、いつも通りの平和な日常へと戻っていくのだった。





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一気に、小説家になろうにもアップしている分まで更新していきます。

ちなみに、勇者たちが遊んでいるのは、私が子供の頃にも流行った

「陣取りゲーム」です。

(あまりに激しかったため、学校では禁止になるほどに白熱しました)

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