第15話 魔王様、夏祭りを楽しみにされる
夏休みも終盤に差し掛かった頃、宿題がまだ終わってないと言うアキラとミユが寺に来て宿題をしている。
そして――ソレは唐突に発せられたのだ。
例によってミユからの爆弾的発言であった。
「プール、行きたくなぁい?」
「プール?」
「そう! 折角水着買ったのに今年まだ行けてないんだよね~」
……宿題も終わっていないのに遊びに行きたいと言うのだ。
呆れて溜息を吐く我に、聖女は苦笑いしていた。
我と聖女は共に宿題は日記以外は全て終わっている。
だがこの姉弟、これまで一度も宿題をしていなかったというのだから今が正に地獄と言って良いだろうに……欲にまみれておるな。
「そう言う事は、宿題を終わらせてから言って頂きたいですね」
「ユウが厳しいよぅ……」
「学校から持ってきた朝顔を早々に枯らした貴方には言われたくないですね」
小学校一年生の恒例と言っていいらしい【朝顔観察】も、アキラは夏休み数日で枯らしてしまった。担任にバレてしまえば叱られると言う理由で我の育てている朝顔観察日記を貸して欲しいと言われた時は頭に
我の朝顔は花が咲き誇り、瑞々しく咲いている。
種を取っておいて来年には鉢植えを増やして宿坊で育てようとさえ思っているのだ。
やはり季節の風物詩である花は美しい。
その時期にしか見れぬ花とは尊いものだ。
「とは言っても、心寿だって一緒に水着買ったじゃない?」
「そうだね」
「祐一郎君、心寿の水着姿見たくない?」
「見たいですが、
「キャア! 嫉妬深い! ちょっとしたヤンデレ要素ありで萌えるわ、燃料燃料」
そう言って我に手を合わせるのは最早慣れた。
聖女の水着姿は見てみたい、だが見れば自分の
前世の世界ならば幾らでも外す事ができたが、この世界で
夏場ならば俗に言う「なんと言うか、全て……夏が悪いんです」みたいなノリになってしまう。
言っておいてなんだが、その言葉は理解できるな。
薄着の今こそ雄は本能的に雌を探すのだろう。
その雄が聖女を見るというだけで相手を殺したくなるのだから、我も重症な気がしないでもない。
そう、例を挙げるならば長谷川とか……。
「そう言えば、長谷川最近みないね」
「そうねぇ……七夕前までは花屋の前を自転車でグルグル回ってたのに」
「それは所謂ストーカーですか?」
「心寿姉ちゃんの前で恥かいたから家から出てこないだけじゃね?」
「見かけないなら見かけないで不気味よね……」
「ちょっとね」
聖女ですら困ったように口にする程、長谷川は夏の風物詩だったようだ。
おのれ長谷川……我が寺で修行している間に聖女にストーカー行為をするなど、今度なにかあればタダでは済まぬ。
「じゃぁさ、今度近くでお祭りあるから皆で遊ばない?」
「お祭り……良いですね」
「私と心寿は浴衣着るもんね~!」
「楽しみだねぇ~!」
おお、聖女の浴衣姿か……何度も見たがアレは実に良い。
浴衣から見える首筋は何ともそそられるものがある……。
「祐ちゃんは浴衣持ってないの?」
「ありますが、殆ど
「勿体無い、それは実に勿体無いぞ少年!」
「そうは言われましても」
「私が欲する!! 美少年の作務衣も良いが浴衣姿も見てみたい!」
「私の持っているものは、
現代に置いて、浴衣=夏の装いのイメージがあるようだが、元々は湯浴みの為の衣装だったと祖父から聞いたことがある。
更に着流しと言うものは、自宅やその近所にいる時に着る【ラフな格好】を言うのだ。
無論外出着には羽織がマナーだが、我は羽織もちゃんと持っている。
まぁ、浴衣も着流しも見た目が殆ど変らぬのだ。
着ている者の気持ち次第かも知れんな。
「寺の境内を掃除する時や床噴き、お堂の掃除など、私はやることが多いので、つい作務衣で動いてしまうのです。ですが一応着流しも持っていますし着付けも出来ますよ」
「でも、和装って萌えるじゃん?」
「ミユさんの言う言葉がよく理解できず申し訳ありません。ですが着流しをご所望でしたら夏祭りには着流しで行きましょう」
そう言うとミユは
我の持っている着流しの殆どは、父や祖父が小さい頃に着ていたという物で質も良い。
母は前々から我に着て欲しいと言っていたが、境内を動き回るには少々不便だ。
無論、宿坊を始めればそれなりの服装で自分を律する事をしなくてはならない。
それでも我は作務衣を愛用するのだろうなとは思ってしまうわけだが、やはり作務衣は動きやすい。着流しはもう少し年齢が上がってからでも良いだろう。
宿坊の建築も始まり、既に庭からは土台部分が出来上がっている姿を見ることが出来る。
来年の四月には出来上がるようだが、それまでに我も覚えることが山積みだ。
「たまには息抜きをしないと、心身共に疲れてしまいますね」
「ユウは最近忙しそうだしなぁ」
「習い事とかは結局やらないの?」
「一応体験くらいは行って来ましたよ? 柔道に剣道、合気道に空手、弓道も体験として行った事はあるんですが……面白みがないんですよね」
面白みが無いのは相手が弱いからと言うのもあるが、やはり本気で命がけの戦いを経験したことのある我にとっては、どれも本気で打ち込めるものでは無かった。
どこの習い事に行っても「直ぐに大会に出れるレベルだ」と必死に引きとめようとしたが、あのような子供の遊戯に時間を取られるわけにはゆかぬ。
寧ろ、坐禅や囲碁に将棋、そっちをしているほうが時間を有意義に使えると思ってしまったのだ。
心を無にして坐禅を組むと、それはストレスの発散にもなった。
最近は寝る前に必ず坐禅を組んで暫し心を無にする時間を作ったくらいだ。
囲碁や将棋は戦略を練るのがとにかく楽しい。
祖父との熱い戦いは我の楽しい遊戯の時間だ。
無論、肉体改造にも力を入れている。
前世、魔王ダグラスだった我が一人でやっていた運動も取り入れつつ、しっかり食事を取り、無理の無い範囲で身体を動かす。
成長痛も最近は感じるようになり、背丈も大きくなってきた。
今年の終わりには聖女を抜いてしまうかもしれないな。
「ま、祐一郎君が一番熱中できるのは心寿の事だろうし、本当心寿が羨ましいわぁ」
「ユウは十八歳になったら心寿姉ちゃんと結婚するんだろ!? スゲーよなぁ」
「学生結婚……憧れるわ~」
「でも、私も覚える事は多いの。少しずつ理解はしてるんだけどね」
「何事も一歩ずつです。さぁ、お喋りはここまでにして早く宿題を終わらせて下さい。終わらないというのであれば夏祭りは私と心寿二人だけで行きますよ」
「「頑張ります!」」
こうして、アキラとミユは解らない所は我や聖女に聞きつつ宿題の山との戦いを始めた。
やはり高学年になると宿題の量も増えるようだな……この世界では将来本当に役に立つのか解らぬ内容の学問も含め、覚えることがとにかく多い。
オル・ディールの世界ならば、人間の世界では平民や農民は読み書きすら出来ぬものが殆どであったと記憶している。
もし曾婆様の言うとおり……肉体だけが今封印されているのだと言うのなら、封印が解けたとき我の魔王としての仕事は、平民や農民にまでも学問を広めることだな。
そうすれば、もっと人間達とて豊かになろうし、心に余裕ができれば魔族を怨む人間も少なくなるやも知れない。
――目標があると言うのは良いことだ。
必死に宿題を解いているアキラの横で、我は庭から聞こえるセミの声に耳を傾けた。
=====
魔王様の夏祭り編に入ります(`・ω・´)ゞ
てらまおに関しては、書き終わってる部分までは時間不定期に更新していきますので
読まれている読者様がいらっしゃれば、お楽しみに!
そして、ぽちっと応援などあると、とても喜びます(笑)
てらまの、魔王さまと勇者の掛け合いは、書いててすごく楽しいです。
今後キャラも増えるので、是非、楽しまれてくださいませ。
フォローなどありがとうございました/)`;ω;´)
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