時雨城の越鏡者

 ──1838年、春。


 俺は時雨城しぐれじょうの本丸御殿に設けられた庭をぐるりと囲んでいる縁側を歩いていた。


 刀の手入れをしてから武器庫に向かっていた矢先、視界にが映りこんだ。


 ……何でこんなところに……?


 後退りして近くの壁に背中からぶつかって、そのまま尻もちを着いた。 動悸とともに呼吸が早くなり、血の気が引いていくのが分かる。


 のような白い仮面が月明かりに照らされて一層不気味さを増している。


 蛇の仮面を付けた女の傍らには一人の少女が床に倒れていた。 その手にはが握られている。


「で、出ていけ!! 使……!!」


 手入れしたばかりの刀を抜いて、震える声を可能な限り張り上げた。


「……お願い、この子だけは生かしてあげて ──この子に罪は無いから、」


 仮面の女は亜麻色の髪を揺らす。 嘘を言っているようには見えないが、使に耳を貸すつもりはない。


 唾を飲み込んで、刀を振りかぶった。


 その刀身は、〝金属とは思えないような独特な光沢〟を放っている。


 歯を食いしばり、仮面の女を目掛けて刀を下ろす。


 ──だが、直前に意識が途絶えた。

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