パラダイス鎖国

 お袋の話によれば脳筋体育教師が電話で「この前の放送室の電波ジャックは叱らないので、街について重要な話があるから登校するように」と言われたそな。


 お袋の付き添いで逃げられず、俺ら三人の不良は学校へ連行された。


 崖に建造された、半分だけ作りかけの橋に見える土台。

 その上に建てられた校舎を恨めしく思う。

 街獣同士がバトルした時に崩れ落ちてくれれば、俺ら三人はノコノコ登校することはなかったのに、と心の中で呟き口だけは舌打ちをすると、お袋が睨みを効かせやがった。


 正門で出迎えた体育教師は待ってましたとばかりに笑顔を見せた。

 お袋は俺の頭を鷲掴みにして、九十度まで首を押し曲げ、サバ折りで謝らせる。


 お袋が学校を去ると俺、相棒のクリム、キノコヘッドのタロは、ます学校の職員室へ案内された。

 そして、脳筋クソ体育教師にこの前の放送室占領を、こっぴどく叱られたのだった。


 叱らないんじゃねぇのかよ!?


 十代でここまでの屈辱を経験するなんて、将来立ち直れずグレて不良になったら、大人達はどうしてくれんだ?

 てか、元が不良だから説教されてんだけど……。


 たっぷり怒られた後に教室で授業を受けた。

 何が面白くてカビ臭い木造の校舎で、先生共のクソつまんねぇ話を聞かなきゃなんねぇんだよ。


 黒板の前によぼよぼの足でやってきた社会科の先生センコー

 というより、ただの爺さんだ。

 何十年もこの学校で働いてる生きる化石。

 その生きる化石が咳払いをすると、生徒達は反射的に先生に注目した。


「この街の真実を……いえ、世界と我々が何者なのか話さなければなりません」


 すでに退屈になってきた俺は、鼻の穴に指をぶっ込んで、ホジホジしながら頭を空っぽにしていた。


 よし! 話が終わるまで、可愛い女子のことを考えて、ストレスを軽減しよ。


「神話の古事において私達の祖先は、空にある無数の星の一つから、この地へ降り立ったと言われてます。彼らは植民地を求めて作物を耕すようにあらゆる技術を尽くして、この世界を作り変えようとしました。その過程で神体である街獣を作ったとされます」


 え? マジ?


 祖先が街獣を作ったてことは――――人間が神様を作ったってことか?

 話がぶっ飛び過ぎてて着いて行けないんだけど。


 それを聞いた生徒達はどよめき、話は隣の机から机へとリレーが始まる。


「空から降りて来たって何?」「先祖が星から来たってことは羽が生えてたのかな?」「ウソ! 天使なの?」「先祖が飛べるってことは俺達も空を飛べるのか?」


 先生が手を叩いて騒ぐ教室を黙らせる。

 俺も先生の話に興味が止まらねぇ。


「数千年前。祖先は故郷の星が寿命をむかえ、生き延びる為に母なる星を去り、現在の地へ移住したのです。しかし、溶岩と毒性の雨にさらされた世界は、人間には過酷過ぎます。そこで人々を守る神々の巨体へ住み着いたとされています」


 待て待て待て!

 何千年も前の話をされても「わかる~!」って、なるわけねぇだろ?

 こういう時、理解力の無い自分の頭を呪うぜ。

 ずっと俺の頭の悪さは、女子の母性をくすぐるチャームポイントだと思ってたのに。


「この世界には様々な呼び名があります。暁星あけぼし、明けの明星、一番星、ルシファー…………金星」


 クラスの生徒達が聞いたことない言葉ワードにザワめく。


 金星? なんだよそりゃ?

 大体、この溶岩の大地以外に世界があるなんて話から置いてけぼりなのに、金星だのなんだの言われても混乱するだけだ。

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