第11話 きっと彼女と飲む酒は

時刻は20時を少し回った頃。ぞぞぞぞぞー、と部屋に音が響く。


その音の元は、机の前にひとり、姿勢良く座り、お茶漬けを食べている蒼衣だ。


「……よく飯食えるな」


「……やめてくださいよ。まるでわたしが食いしん坊みたいじゃないですか」


ぷくり、と頬を膨らませ、こちらを見る蒼衣。その視線の先には、ベッドで寝転がっている俺がいる。


「いやいや、むしろ褒めてるんだぞ。20歳の俺は微妙に胃もたれしてて、腹は減ってるけど食いたくはないからな……。若いって羨ましい」


「またそれですか……。20歳でそんなこと言っていると、これから先、大変なことになりますよ?」


「たしかに。30歳とか40歳、怖いな……」


20歳になっただけでこの劣化、60歳になる頃には、もう何も食べられなくなっていそうだ。


「それに、21歳まであと数ヶ月だしな……。次は何が食えなくなるんだ……」


「別に食べられなくはなってないじゃないですか。……なぜか先輩は毎回胃もたれしてますけど」


「なぜかは俺にもわからねえんだよなあ。……まあ、お前も20歳になってみればわかる」


「20歳、楽しみにしてるんですから不安になること言わないでくださいよ……」


「楽しみ?」


何か、20歳になることで楽しみだな、なんて思うようなことはあっただろうか。酒が飲める、くらいな気がする。あとはタバコも解禁されるが、蒼衣が吸うことはないだろう。となると、やはり酒だろうか。


「楽しみですよ。ようやくお酒が飲めるようになるわけですし。これで先輩と一緒にお酒が飲めるんですから」


「……なるほど」


今から待ちきれない、とばかりに目をきらめかせる蒼衣に、俺は小さく息を吐く。


蒼衣と飲む酒、か。


間違いなく美味いだろうなあ。


それは俺も楽しみだ。早く12月にならないだろうか。


なんて考えていると、蒼衣がにやり、と笑いながら口を開く。


「先輩的には、わたしが19歳の方がいいですか? 未成年彼女ですし」


「だからその言い方やめろ……」


「事実ですよ?」


「事実だが人聞きが悪すぎるんだよなあ」


そう言った俺に、蒼衣は慈愛に満ちた瞳で、俺を見て、手を握る。


「捕まっても、わたしは先輩のこと、ずっと待ってますからね?」


「犯罪は犯してないが!?」


吹き出す蒼衣に、俺は大きくため息を吐きながら。


「もう待たせるつもりはねえよ」


そう、小さく呟くのだった。

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