第10話 真面目なあとは甘いものを

「ふぅ……。なんだか安心したらお腹空いてきました。先輩はどうです?」


「……この状態で腹減ってると思うか……?」


満足そうに、立ち上がってそう言った蒼衣に向かって、床に倒れたままの俺は、息切れしながら恨みがましく呟く。


「言われてみればお腹空いてたりするかなー、と」


「まあ、それはそうなんだが。微妙に腹は減ってる……ような?」


「なんで疑問形なんですか……。まあいいです。適当に何か作りますけど……3時ですし、甘いものでいいですか?」


「ん? もうそんな時間か」


ちらり、とベッドを見上げるが、うまく時間が見えない。ぐい、と体を上げ、確認すると本当に3時前だった。


「別に甘いのはいいんだが、作れるものなんかあったか……?」


思い返してみても、そんな材料が台所にあったような気はしないのだが……。まあ、管理しているのは蒼衣だし、何かあるのだろう。


そう思い、蒼衣を見ると、にやり、と笑う。見上げる形になったせいで、ひらりと揺れるスカートに視線を奪われそうになる。うーん、悲しきかな本能。


そんな俺の思考には気づかず、蒼衣は得意げに、


「それがあるんですよ。簡単に作れる、美味しいものが」


と言って、台所へと向かい、何かを手に戻ってくる。よしょ、と呟き、それを俺に見えるように掲げた。


「じゃーん! ホットケーキミックスです!」


「へえ、ホットケーキミックスなんか家にあったのか」


「この間、たまたま目に入ったので買ってみました。たまーにホットケーキ、食べたくなりません?」


「わかる。けどあれ、作るの難しくないか?」


「いや、混ぜて焼くだけですよ?」


「焼くときの形が難しいんだよな」


たしかに、混ぜて焼くだけ、ではあるのだが、丸く作るのが難しい。いったい、どうすれば丸くなるのか……。


なるほど、と頷いた蒼衣は、ぴん、と指を立てる。


そして、俺の前にしゃがんで、ぱちり、と片目を閉じてこう言った。


「なら、わたしが先輩に丸く焼くコツを教えてあげましょう!」


「お、おう……」


……自信ありげに言っているところ悪いんだが、その、スカートの間から見えてるぞ……。


俺は、その言葉をなんとか飲み込んで、ただ見える景色を焼き付けるのだった──


「……先輩、見過ぎです」


「気づいてるなら隠せよ!?」

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