第9話 双方向、因果応報

「……なるほど」


蒼衣の話を聞き終えた俺は、ひとつ頷いた。


ちなみに、体勢は依然、俺に蒼衣がぴったりとくっついた状態だ。正直、そろそろ耐えるのも限界なので離れて欲しいとは思っている。蒼衣はもっと、俺に対して特効状態にあることを理解して欲しい。……いや、理解しても多分してくるし、なんなら頻度が増す気がするけれど。


……そんなことはともかく、蒼衣の悩み事だ。


色々言っていたが、まとめてしまうとつまりはひとつ。


まあ、その……俺のことが好きで仕方がない、という話なのだろう。


独占欲が強くなって、重い感じになっている、と言っていたが、それは俺からしてみれば──


「考えすぎだ」


俺は、優しく蒼衣に腕を回す。ついでに、右手を頭に持っていき、髪を撫でる。柔らかく、さらさらとした髪の感覚が手に伝わり、心地いい。


「別に、俺はなんとも思ってないし、気にしなくていい」


「で、でも……」


不安げに声を漏らす蒼衣に、俺はひとつため息を吐いて。


「そもそも、蒼衣にそういう素質があったのは最初からだぞ?」


「へ……?」


「一応はフラれたのに、その相手にもっと好きにさせる、なんて言うやつが重くないとでも?」


「う……そ、それは……」


今は顔が見えないが、微妙な顔をしている蒼衣が簡単に想像がつく。思わず口元が緩むのを感じながら、俺は続ける。


「そういうやつだってわかってて今まで一緒にいるんだから、別に気にしなくていいからな」


それに、だ。


「……俺もお前がそんな感じだと、ちょっと安心する」


「え? それって……?」


「……まあ、俺も少なからず蒼衣と同じようなことは思ってるってことだ」


俺にだって、多少の独占欲とか、そういう気持ちはある。蒼衣が俺に抱いてくれているのなら、俺のそういう欲も満たされる、というわけだ。


「……先輩は、重いわたしでもいいんですか……?」


「まあ、そうだな。……あ、でもナイフ持ち出す感じにはならないでくれ」


「そんなファンタジーな人にはならないです」


「案外いたりするらしいけどなあ」


そう言いながら、蒼衣がいつも通りに戻りはじめたことに安堵する。


「さて、と。話は終わりでいいか?」


「……はい」


さっきまでとは違い、少し吹っ切れたような、軽い声音の返事が胸元から聞こえる。


「……なら、そろそろどいてくれ」


「嫌です。もうちょっとこのままがいいです」


俺の背中に回した腕に、きゅ、と強く力を入れられる。柔らかい感触が俺を襲い、理性が溶け出すのを感じる。


「……俺、そろそろ耐えるの限界なんだが……」


そして、もうひとつ。変な体勢のまま、蒼衣が抱きついてきたせいで、起こっている問題が。


「……脚、痺れてきたんだが」


そう言った俺を見上げ、蒼衣はにやりとして、ぴん、と人差し指を立て──


「……えい」


「あふっ!? ちょ、やめ──」


「さっきの仕返しです! えい!」


「悪かった! 悪かったから! やめてくれ!」


そんな俺の悲鳴はいざ知らず、楽しそうな蒼衣が、ぐりぐりと体を押し付けながら脚を突く、という拷問は、しばらく続くのだった。


因果応報、よく言ったものである……。

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