第8話 麻婆豆腐と残りの課題
「……そんなに真面目な顔してどうした?」
口の中の麻婆豆腐を飲み込んで、ピリッとした後味を残したまま、俺は正面の蒼衣に問いかける。
「先輩にどういうお願いをしようか真剣に考えているところです」
「えぇ……。そんなに真剣に考えることでもないだろ」
「先輩のお願いが、夜ご飯を麻婆豆腐にして欲しいなんてものじゃなかったらこんな風にはなりませんでしたよ」
そう言って、蒼衣は口に麻婆豆腐を運ぶ。
「なら、蒼衣はどういうお願いが欲しかったんだ?」
「……それは内緒です」
そう言って、黙々と麻婆豆腐を食べる蒼衣を見ながら、どうせ蒼衣のお願いでその内容はわかるのだろう、と考える。
「それはそうと、蒼衣は課題、どれくらい終わった?」
「えーと、残りはひとつですね。明日にはなんとかなりそうです。先輩はどうですか?」
「俺は残りふたつだな。まあ、片方は簡単なやつだし、いけると思う。……明日中はちょっとわからねえけど」
ゴールデンウィーク最終日である明後日は、休日返上の通常講義なので、明日中に終わるのが1番ありがたい。だが、生憎もう一方の課題は、また文章を読んでまとめて意見を書くものだ。その文章が、例の如く長い。超長い。
まあ、この課題は来週の月曜日までなので、土日を1度挟む。最悪、明日に終わらなくてもなんとかなるだろう。
「……結局、ゴールデンウィークは遊びに行けそうにないですね」
「そうだな……」
大学生は長期休暇が本当に長いのだから、ゴールデンウィークくらい我慢しろ、と言われそうなものだが、世の中の人々が休みなのに、自分は休みではない、というのにはくるものがある。というか、腹が立つのだ。俺も休みたい。
「……まあ、遊びに行くのは夏休みだな」
「ですね……。まだあと3ヶ月もありますよ」
「その間に試験もあるしなあ」
そう言って、ふたり揃ってため息を吐く。なんともまあ、テンションの下がることだ。
そのテンションを少しでも上げようと、俺は麻婆豆腐の最後のひと口を食べる。ピリッとした適度に刺激をしてくる辛味が完璧だ。
「ごちそうさま。美味かった」
「それはよかったです」
そう言って、蒼衣も最後のひと口を運ぶ。
俺は、皿を持って台所へと向かう。遅れて後ろから蒼衣が付いてきて、流しへと食器を置いた。
「さて、先輩。ご飯も食べ終わりましたし、そろそろお願いをさせてもらいますね?」
「ん? ああ、決まったのか?」
「はい。やっぱりこれかな、と。せっかくのお願いなので、普段は断られそうなものにしました」
ふふん、となぜか得意げな蒼衣に、俺は嫌な予感を覚える。
「……お手柔らかに頼むぞ」
「はい。ではまず、ひとつ目のお願いです」
それから蒼衣は、小さく息を吸って、ひとこと呟いた。
「わたしのお願いは──」
それを聞いた俺は、思わずこう漏らすのだった。
「……マジ?」
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