第17話 もう気にする必要も

「あ、先輩。お風呂どっちが先に入ります?」


「ん?」


風呂? なんで? 今の流れで、風呂?


混乱する俺をよそに、蒼衣はわざわざ一度取りに帰っていた荷物から、タオルやら何やらを取り出している。


「……なあ、蒼衣、もしかしてお前……」


「なんですか?」


「泊まろうとしてる?」


「はい」


さも当然、と言わんばかりの表情で、首を傾げる蒼衣。


「……お前、その荷物ってまさか」


「お泊まりセットです」


やっぱりか……!


というか、あの短時間での準備。間違いなく計画的犯行だ。朝、もしくは前日の夜から準備していたに違いない。


「ダメ」


「えー……なんでですか?」


不満げに頬を膨らませる蒼衣に、俺は目を細めて、


「安易に男の家に泊まろうと──」


いつものようにそう言いかけて、気づいてしまう。


そうだ、反射のように蒼衣が泊まることを拒否してしまったが、俺たちは付き合っている。なら、別にいいんじゃないか……?


「先輩?」


突然黙り込んだ俺に、蒼衣は首を傾げる。


そうだ、そうじゃないか。


別に、もう何かを気にする必要なんてない。


「蒼衣」


「はい」


「風呂、先に入っていいぞ」


「へ……?」


俺の急な方向転換に、蒼衣が惚けた顔をする。


「いや、だから風呂先に入っていいぞ」


「え、あ、はい」


そう言って、蒼衣はパンパンに膨らんだトートバッグから取り出したタオルやら何やらを抱えて──


「え!? いいんですか!? 本当に!?」


ずいぶんと遅れてから、こちらを物凄い速度で振り向く。


「まあ、おう」


「いったい今の一瞬で先輩に何が……」


「いや、よく考えたらダメな理由もねえな、と思ってな」


付き合ってるわけだし、と付け加えると、蒼衣は一瞬驚いたあと、くるり、と後ろを振り向く。その瞬間に見えた口元は、緩んでいるように見えた。


それから、蒼衣は背中を向けたまま、顔だけ振り向いて。


「先輩も一緒に入ります?」


「それはやめとく」


「なんでですか!?」

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