第8話 カレーとあれば良いもの

カレーに必要な材料と、他にも少し買い足した後、俺と蒼衣はアパートへの帰り道を歩いている。


「先輩、さっき福神漬け買ってましたよね?」


「ん? ああ」


前を見て歩きながら、そう言う蒼衣に、俺は手に持つビニール袋を持ち直して答える。


「昔から、福神漬け好きなんだよ。別に無くても良いのはそうなんだが、あればなお良し、みたいな」


「あー、まあわからなくもないですね」


「蒼衣は?」


「わたしは無くても良い派です。売っててもわざわざ買ったりはしないですね」


なので新鮮です、と、蒼衣は俺の手元のビニール袋に視線を向ける。


「あ、そういえば先輩。福神漬けって何から出来ているか知ってます?」


「ん? うーん……」


福神漬けの材料……?


言われてみれば、知らないな……。


顎に手を当て、考えるも微妙に思い浮かばない。


色は後から付けられるとして、あの食感。そして、漬物といえば、あれだろうか。


「……大根か?」


「正解といえば正解ですね」


「つまりは完全に正解でもないのか」


「合ってはいますよ。ただ、福神漬けの材料には大根以外にもレンコンとかきゅうりとか、そういうのも使われるんです」


「へえ、知らなかったな……。……というか、俺は何か知らないで食ってたのか……」


「そういうことになりますね」


くすくす笑う蒼衣を見ながら、思い浮かべてみれば、結構そういうものはある気がする。


おでんの練り物とかも、後から材料を知ったし。何を練っているんだろうと思ってはいたけれども。


「さすが、料理するだけあってよく知ってるな」


思わず、称賛を溢すと、蒼衣が得意げに笑った。


「そうでしょうそうでしょう! ……とは言っても、これくらいは知ってる人は知ってますけどね」


「急にテンションが戻ったな……」


俺の言葉に、蒼衣は咳払いをひとつして、得意げに胸を張った。


「ともかく! そんなわたしの作るカレー、期待してくれて良いですよ?」


そして、ぱちりと片目を閉じる蒼衣に、俺はにやり、と口角を上げる。


「期待はもう十分してるからな?」


そう言うと、蒼衣もにやり、と笑って。


「では、その期待に応えてみせましょう!」


そう言って、いつの間にか着いていたアパートの階段を登りはじめる。


俺は、口の中に唾液が出るのを感じながら、その後を追った。

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