第11話 初デートの思い出話
「……あ、ひとつあったな。面白かった教養科目」
ひとしきり笑った俺は、ふと思い出す。
「……それ、何の講義ですか?」
少し機嫌を損ねたのか、むくれながら聞いてくる蒼衣。
「お前も知ってる講義だぞ。水族館に行かされる講義」
「あ、あの講義ですか。わたしと先輩の初デートの理由になったやつですね」
そう、まさにその講義だ。
課題の詳しい内容は覚えていないが、水族館に行かなければならなかった、ということだけは覚えている。
「まあ、講義が面白かった、というより水族館に行った印象が強いけどな」
「あれももう半年くらい前ですよね?」
「……もうそんなに経つのか」
後期の講義だったはずなので、おそらくそれくらいは経っている。
「これもそのときに買ったんだったな」
そう言って、俺はスマホを取り出す。イヤホンジャックには、もうそこについているのが当たり前になった青色のイルカのストラップがぶら下がっている。
「さっきのとは違って、こっちのお揃いは嬉しかったです」
蒼衣はそう言って、自分のスマホを取り出す。そこには、俺のイルカと合わせることの出来る赤色のイルカのストラップが揺れていた。
それを見て、俺はあの日のことを思い出す。
「先輩、サメに目をキラキラさせてましたよね」
「サメは男の夢だからなあ。めちゃくちゃカッコいいし」
「たしか、そのサメの名前がサメじゃなくて違う生き物の名前でびっくりしてましたよね。……ええと」
首を傾げて人差し指を顎に当てる蒼衣。思い出そうとしているところ悪いが、俺は覚えている。
「シロワニ、な」
「あ、それですそれです。……というか、よく覚えていましたね」
「印象的だったからな。ワニなのかサメなのかどっちなんだ、って驚いたし」
「結局サメだったんですよね」
「そうそう」
「エイも大きかったです」
「あれは思ってたよりも大きかったなあ」
「あと、ペンギンが可愛かったです」
「あ、そういえばあのとき買ったペンギンのぬいぐるみ、元気にしてるか?」
「元気にしてますよ。ベッドの近くに置いてます」
「それはよかった」
そう言って、あとは何をしたんだったか、と思い出す。
「生しらす丼も食ったな」
味はもちろん、見た目も魅力的という素晴らしい丼だったことを覚えている。また食いたい。そう思っていると、同じだったのか蒼衣も目を輝かせている。
「あれはとっても美味しかったです……!」
懐かしいなあ、なんて呟いていると、蒼衣がくるり、と笑顔でこちらを向いて。
「わたし、水族館に行く講義取るので、また水族館デートしましょうね!」
「おう。……あれ、後期だったから前期に取れるかはわからねえけどな」
「な、なかったら後期に取りますし……!」
慌てる蒼衣を見ながら、取れなかったら普通に水族館に連れて行ってやろうかな、なんて思った。
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