第6話 必須アイテムが足りていません

ホワイトデーのお返しを渡し終えた後、しばらくして、俺と雨空は、またいつも通り、特に何もないゆったりとした時間を過ごしていた。


ぺちぺちとスマホの画面を叩いてゲームをしていると、何かに気づいたように雨空がびくり、肩を揺らす。


「……先輩、ひとつ確認したいことがあるんですけど」


「ん?」


「この部屋、カセットコンロか卓上IHありましたっけ?」


「……ないな」


「……やっぱりですか」


俺の部屋の調理器具は、そのほとんどが雨空が収集したものだ。元からあったのは本当に基本的なものだけで、後は俺の知らない間に増えた、使い方のわからない調理器具達が並んでいる。


その雨空が把握していないとなると、この部屋にカセットコンロも卓上IHもないのは確実だ。


まあ、ないことは仕方ないのではあるが。


「お鍋なのにどっちもないのは厳しいですね……」


「だよなあ」


鍋といえば、机の上で加熱しながら食べる、というイメージが強い。というか、雨空の言っていた、同じ鍋をつつく、という食べ方にはその形式が必要だ。


「カセットコンロ……いや、卓上IHってどれくらいの値段だ?」


雨空が、指をこめかみに当てながら、ぐりぐりと押して値段を思い出す。


「ええと、多分、5000円くらいかと」


案外安いな。諭吉1枚くらいはなくなるかと思っていたのだが。


「……買うか」


「いいんですか?」


少し驚いた様子の雨空。まあ、鍋のためだけに、と思うとその反応にもなるか。


「そこまで高いものでもないし、どうせ他のことにも使うだろ」


「まあ、あると便利だとは思います」


「なら、買っておいても損はないだろ」


「たしかにそうですけど、本当にいいんですか?」


「いいんだよ別に。さて、そうと決まれば今から行くか。……また外に出るのは面倒だが」


「どこに行くんです?」


首を傾げる雨空だが、こういうときに行く場所は決まっているし、おそらく雨空もわかっている。


「こういうのが売ってる場所ってこの辺りにはないからな……。ま、いつも通り」


「ショッピングモール、ですね」


「その通り」


そんなわけで、突発的買い出し第2弾が行われることになった。


……鍋、思ったより面倒じゃないか? 準備多くね?

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