第5話 上手いか下手か

カチカチ、カチカチと、ボタンを押す音が2人分響く。その音に合わせて、テレビの画面に映るキャラクターがそれぞれに動く。


「よっ、ほいっ、それっ! ……あぁっ!?」


雨空の悲鳴より少し早く、雨空の操作していたキャラクターが画面外に吹き飛んだ。


「はっはっは。精進したまえ雨空くん」


「ぐぬぬ……もう1戦です! ……と言いたいところですけど」


ぷくり、と頬を膨らませながら、雨空がコントローラーを机に置いた。


「そろそろ夜ご飯の準備の時間ですね」


「あれ、もうそんな時間か」


あれから、特にやることもなかった俺たちは、乱闘するゲームで遊んでいたのだが、どうやら3時間ほど経っていたらしい。時計が示しているのは、もう18時をまわっている。


台所から聞こえる雨空の鼻歌を聞きながら、俺はゲームをスリープモードにして片付けておく。


にしても。


「雨空ってゲーム下手だよな」


「そんなことないですよ! 先輩が上手いだけです」


「いや、俺上手くはないからな」


下手、というほどでもないが、人並みだ。そんな俺でも完封出来るくらいには、雨空はゲームが下手で、弱い。


「そもそも、わたし大学生になるまでアクションゲームやったことなかったんですよ。だから先輩に負けるのは当然です。むしろそんなわたしに先輩が負けたらびっくりです」


「大学生になるまでって、珍しいな。……そういやはじめて俺の家でゲームしたときにそんなこと言ってたような……?」


雨空と出会ってすぐくらいだったか。有名なゲームでもやったことがないと言っていたことに驚いた覚えがある。


「というか、わたしゲームを買ってもらえる家じゃなかったので、ほとんどのゲームが先輩の家ではじめてですけどね」


「むしろ何をやったことがあったんだ?」


「着せ替えゲームですね。女の子を自由にコーディネート出来るやつです」


「なんであえてそれ……?」


「友達が持っていたので」


「なるほど」


にしても、もう少し他のものがあっただろうに、その友達もなぜあえて……。


なんて思っている間に、台所から聞こえる音が、規則的な包丁の音ではなく、食欲をそそる焼き音に変わる。


「ん、肉?」


「そうですよ。先輩が食べようとしていた豚バラです」


「お、いいな」


豚バラは、安くて美味いという素晴らしい肉である。肉の焼く音と相まって、期待は十分だ。……相変わらず、自分でも思うが肉に弱い。


「ちなみに、ちょっとだけ凝ったものなので、時間はかかりますけど、期待してもらっていいですよ」


こちらからは見えないが、きっと得意げな表情に違いない声で、雨空はそう言った。


雨空が期待していい、ということは、だ。


間違いなく、俺の好みピッタリの料理が出来上がる、ということで。


俺の期待感は、さらに高まるばかりである。

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