第19話 正月で1番
あれから、適当に屋台を巡り、腹を膨らせた俺たちは電車へと乗り込み、最寄駅へと帰って来ていた。
ゆっくりと、駅からアパートへの道を歩く。
「今までで1番慌ただしい正月だった気がするな」
「ですね。実家にいた頃は近所の神社に行って終わり、でしたし」
呟いた俺に、雨空がそう返す。
「俺は昨年もこの辺で遊んではいたが、ここまでじゃなかったな。けど──」
神社に行ったりはしたが、福袋を買いに行ったりはしていない。ひとりだったので、おみくじで盛り上がったりもしなかった。
「今までで1番楽しい正月だった」
だから、間違いなくそう言い切れる。
「……わたしも」
俺の言葉に、雨空もはっきりと、こう言った。
「わたしも、今までで1番楽しかったです」
「なら、よかった」
満面の笑みの雨空に、思わず俺も笑う。
アパートを通り過ぎ、雨空のマンションの前へと辿り着く。
「さてと、じゃあ帰るか」
いつも通り、雨空を見送って帰ろうと思いそう言った俺の腕を、雨空が掴む。
「……どうした?」
「先輩、お酒の福袋忘れてません?」
「……あ」
そういえば、雨空の部屋に置いて行ったんだったか。さすがに未成年の雨空の部屋に置いておくのはまずいな……。
「それだけ預かって帰る」
「そうしてください。わたしの部屋にあっても飲まないので……」
そう言う雨空について、エントランスを通ってエレベーターに乗り込む。
5階のボタンを押してから閉ボタンを押す。
「あ、先輩」
今思いついた、というように雨空がこちらを向く。
「なんだ?」
「せっかくなんで、夜ご飯わたしの部屋で食べて行きませんか? さすがにちょっと早いので、しばらく暇にはなりますけど」
ふむ。
言われてみれば、今の時刻は16時を少し回ったくらいだ。屋台飯だけでは微妙に夜中に腹が減るのは明白。育ち盛りは食費がかかるのだ……。
「……そうだな。頼む」
「! はーい!」
少し目を見開いたあと、雨空は気分がよさそうに返事をする。まあ、昔の俺ならこんなことは絶対に言わなかっただろうから、驚くのも当然だろう。
エレベーターが止まり、降りて部屋へと向かう。雨空が鍵を開けると、今日2回目ながらも慣れることのない甘い香りが漂う。
「さて、先輩」
部屋へと入った雨空は、そのままキッチンへ。
「ん?」
「今日は色々ありましたし、少しゆっくりティータイムといきましょうか」
そう言って、雨空はケトルに水を入れて湯を沸かす。
「……だな」
「ちょうど、今日買った福袋の中にスイーツのものもあるんですよ。ちょっと食べてみません?」
「お、いいな。他のも中身が見たい」
「ですね。じゃあ、夜ご飯まではゆっくり福袋を開けながらお話ししましょう!」
それから数時間ほど俺たちは、福袋を開けながらあれやこれやと話し続けたのだった。
……我ながら、この量を持って帰って来たと思うと褒めてもらいたい。
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