第17話 今年最初の運試し

人混みから離れたところで、おみくじを確認する。


「わ、大吉です大吉!」


雨空は嬉しそうに紙をこちらに見せてくる。


おみくじ、特に何ってわけでもないが、大吉が出ると嬉しいよな、わかる。


俺も確認するか。


えっと……?


「……吉」


1番反応が取りづらいところがきたな……。


「わお……。微妙ですね……」


「微妙だな……。まあ、大事なのは全体の評価じゃなくて中身だ中身!」


そう言って、俺は内容を見る。


『失せ物、見つからず』


「見つからないんですか……」


「見つからないみたいだな……。雨空は?」


「えっと、『程なく出てくる』だそうです」


「お、良かったな。……なにか無くしたものは?」


「ないですね……」


「お、おう……」


気を取り直して次だ。


『待ち人、来るが遅い』


「……来るだけマシか」


「これ、そもそも誰待ってるんでしょうね」


純粋な疑問らしく、雨空が不思議そうに言う。


「さあ……?」


「ちなみにわたしは普通に来るらしいです」


ちら、とこちらを上目遣いに見る雨空。


「……誰待ってるんだ?」


それに、答えなんてわかりきった問いかけをする。


「……さあ、誰でしょう?」


雨空は、そんな俺の胸中を見透かしたように、目を細めてそう言った。


「さ、さて、次だ次!」


それを誤魔化し、俺は次の項目を見る。


出産とか商いとかは関係ないから次は……。


「これか。『病気、なおる』」


「あ、一緒ですね。今年も健康でいられそうで何よりです」


「だな」


吉とはいえ、ここが良いことが書いているのは良かったと思う。健康第一だ。


「あとは願い事、とかですかね。わたしは『叶う。暫し待て』だそうです」


「へえ、俺は……『叶う。動け』らしい」


……動け、か。まったく。


わかってる。


顔をしかめる俺に気づかず、雨空は次の項目を読み上げる。


「あ、学問はなんて書いてあります? わたしは『安心して励め』って書いてあります」


「ん? ああ……『困難である。学べ』。うるせえ知ってる」


「罰当たりですよ先輩!?」


「気にするな。独り言だ」


「そういう問題じゃないです!」


ツッコミながらも、別に本気で怒っているわけではない雨空を宥めながら、最後の気になる項目を見る。


「恋愛の項目、なんで書いてあるんです?」


その視線に気づいたのか、雨空も紙を覗き込んでくる。


「あーっと……『逃せばない』らしい。……逃せばない!?」


なんだそれ!?


ないってなんだないって。


「……へえ、『逃せばない』ですか……。えへへ」


俺のおみくじに喜ぶ雨空を見ると、雨空はなんて書いてあるのかが気になる。


「で、お前はなんて書いてあったんだ?」


自分のおみくじに恥ずかしいような気もするし、わけがわからない気もするし、と微妙な感情になりながら、そう聞くと、雨空は笑顔でおみくじを見せてくる。


「えーと、『逃せばない』……お前も!?」


「はい! つまり、そういうことだと思いますよ?」


そう言って、雨空が腕に抱きついてこちらを見上げる。また目を細めてはいるが、先ほどとは少し違う、柔らかい印象を受ける。


……なるほど、そういうこと、ねえ……。


「……ま、そうかもな」


実際、『逃せばない』は当たっているような気がしている。


それに、『動け』、か。


わかっている。


あとは、ほんの少しのための、準備だけだ。


すべては俺次第、というやつだろう。


決意を改めて、最後にもう一度おみくじを見る。


……これ、不穏だな……。


「……なあ、雨空。『転居。今が吉』って書いてるんだが、屋根吹き飛んだりしないよな?」


「……お引っ越しします?」


「せめて否定しろ、と強く言えないところが、なあ……」


あのボロさでは、どうにも壊れないとは言い切れないのだ。


今年の願い事は、アパートが壊れませんように、にするべきだったかもしれないな……。

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