第13話 屋台くじと神に感謝を
さて、雨空蒼衣という後輩は、イベントが好きなやつだ。
これまでのことからして、これは間違い無いだろう。
そんなやつが楽しみにしていた初詣。そこに屋台もあるとなれば、どうなるかは明確だ。
「お、おおお、おおおおおー!」
ハイテンションである。まだ外とはいえすぐに神前だからな、落ち着け。
「先輩、先輩! はじめて見る屋台があります!」
「まあ、そうだろうな。俺も見たことないやつあるからな」
「あ! またくじがあります! 夏祭りのリベンジですね!」
「やめとけ、当たらなかっただろ?」
「そ、そうでしたね……。あれ? そんなくじを神社で売ってもいいんですか……? 罰当たりじゃないですか?」
「そこに気づいたか。俺も罰当たりだと思う。あとオマケを言えば、あの景品、見えるか?」
俺は、景品棚に並んでいる箱を指差す。
「? あの箱ですか?」
「そうだ。あれは2年くらい前の特撮ヒーローの変身グッズだ」
「そ、それはどういう……? なんで2年前のを……?」
混乱する雨空に、ひとこと。
「当たりが入ってない」
「やっぱりですか!」
憤慨する雨空。さっきも当たらないって言っただろ。
さっきの箱も、他の景品も、ほとんどのものが盛大に色褪せている。もはや哀愁が漂うレベルだ。……というか、ラインナップが昨年にも見た気がするな。
「……今日は罰当たりなくじじゃなくてありがたいおみくじにしておきます」
「おう」
さすがに景品の風化が気になったのか、今回は踏みとどまったらしい。……少しうずうずしているように見えるのは、気のせいではないだろうが。
「屋台もいいけど、先にお参りしておくか」
「ですね。終わってからご飯食べて帰りましょう」
そう言って、巨大な鳥居をくぐる。その向こう側には大量の人だ。この量の人の願いを聞かなければならない神様も大変だろうなあ。
そんな風に思いつつ、雨空がついてきているか確認する。……もう既にはぐれだしてるな……。
真後ろにいたはずの雨空は、ひとり挟んだ後ろにいた。……仕方ない。
道の端によってそのひとりを先に行かせてから雨空の隣を歩く。
「ひ、人が多すぎます……」
「元旦だからな」
「……先輩」
「ん?」
雨空がこちらを見上げる。
「はぐれたら困りますよね?」
「そうだな」
……これは、手を繋げと言われているのか。
要求されてから手を繋ぐのは少し恥ずかしい気もするな、と思っていると、腕に柔らかい感触が。
「……手だけじゃはぐれそうだったので」
赤い顔をした雨空が、腕に抱きついていた。
「……そう、か……」
俺は、そんな雨空から目を逸らしつつ、特に抵抗もしない。
雨空の歩幅に合わせてゆっくりと歩きつつ、思う。
まだ参拝していないが、神に感謝しよう、と。
その感謝の理由が、甘い香りと柔らかな感触では、煩悩まみれで逆に罰当たりな気もするとは、そのときの俺は思いもしないのだった。
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