第8話 輝く世界に願う
大学生御用達の2駅隣のショッピングモール。その最寄駅は、この辺りでは最も大きく発展した駅であるといえるだろう。
おかげで、この駅ではよくイベントが行われる。クリスマスシーズンのイルミネーションも、そのひとつだ。
決して大きなイベントではないが、それでもこの辺りでは唯一のイルミネーション。それなりに人は集まっているようだ。
時間的には帰宅のようで、駅の改札へと向かう人の流れに反して駅の外へと出る。
「おお……」
雨空か、それとも俺か、はたまた両方かはわからないが、思わず声を漏らす。
ロータリーに沿うように植えられた並木が連なっている。その一本一本が装飾されていた。赤、青、緑、金、銀……。多様な色に染まった木々が、それぞれ光を放つ。
「綺麗……!」
ちらり、と隣の雨空を見ると、うっとりとした、というよりかは子どものように瞳を輝かせている。イルミネーションの光も相まって、その輝きは普段の倍以上に見える。
「先輩、少し歩いてみませんか?」
「おう」
そう言って、ゆっくりと歩きはじめる。
左右から、色とりどりの光に包まれる。
隣を歩く雨空は楽しそうだ。その首元に巻かれているベージュのマフラーを見て、なんだか恥ずかしいような、嬉しいような気持ちになって、目を逸らす。
逸らした先には、仲睦まじく手を繋いで歩くカップルが複数見える。中には、腕を組んでいるカップルもいた。それあんまり現実に見ないと思っていたけど、結構いるんだな……。
しばらく、お互いに、わあ、とか、おお、とか、そんな意味のなく漏れた言葉を呟く。
向かいから歩いてくる人を避け、少し右に逸れる。隣を歩いていた雨空との距離が、ほんの少し縮まる。ほんの少し、その距離が、決定的に近く感じる。
今なら。
ゆっくりと、手を伸ばす。
そうして、雨空の手を、出来る限り優しく、包み込むように握る。
「!」
驚いたのか、雨空がびくり、と跳ねた。しかし、こちらを伺うように、ちら、と見ながら、きゅっと手を握り返してくる。
盗み見ると、雨空は頬を染めながら、はにかんでいる。その表情に、どきりと心臓が跳ねた。
「……」
「……」
言葉はない。
まだ、言葉に出来る覚悟も勇気もない。
言葉にしなければ、想いは伝わらない。そんなことはわかっている。
けれど、今の俺は、その伝える言葉も、伝える勇気も持ち合わせていないから。今の俺に出来ることは、これしかないと思うから。
だから。
せめてこの握った手を通して、想いが伝わるように。
そう、輝く世界に願って。
優しく、強く、その手を握った。
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