第7話 イルミネーションを見に行きましょう

「先輩、イルミネーション見に行きましょう」


お互いに落ち着いてからしばらくして、雨空がそんなことを言った。


「イルミネーション? どこにだ?」


「ショッピングモールの近くです」


そういえば、その辺りというか、駅前からイルミネーションが綺麗だとか聞いたことがある気もするが……。


「あー……。……ええー……。行きたくない……」


「え、珍しいですね。先輩が行事というか、イベントを嫌がるなんて」


あからさまに嫌そうにしているであろう俺を見て、雨空が意外そうに驚いている。


「ちなみに、なぜです?」


「……高校生の頃にひとりでイルミネーションを見に行ったことがあってな。そのときにちょっと……」


「ちょっと?」


「……カップルばっかりで悲しくなった」


「ええー……」


偶然、出かけた先でイルミネーションをやっていることを知って、見に行ったらカップルだらけであった、という話だ。受験前だったので余計にダメージを受けたものだ。俺も遊びに行きたかった……。


そんな風に懐かしい思い出に浸っていると、雨空が、ぽん、と手を打った。


「でも、そんな理由なら問題ないですね」


「は?」


なんだか嫌な予感がしつつも、思わず聞き返す。


「だって、ひとりじゃないですし」


「いや、まあ、そうだが」


「それに、側からみればわたしたちもカップルです」


「いやいやいや……」


そんな強引な……。と、思っていると、雨空はさらに続けた。


「先輩、お昼に話したこと、覚えてますか?」


「……どれだ?」


「わたしたちもカップルに見えるのか、という話です」


「ああ、したな。そんな話」


たしか、チキンを買いに並んでいるときだったか。


「そのとき、わたしのカップルに見えるのかという質問に、先輩はこう答えましたよね? そうかもしれないって」


「……したな」


あ、これはダメだ。負ける。


「つまり、先輩のカップルに対する悲しい感情はわたしが隣にいれば解決するわけです」


「……」


「と、いうわけで、先輩。イルミネーションを見に行きましょう!」


自分の発言に首を絞められた結果、俺に反論の余地はない。


「……はい」


今日は、なんだか雨空にやられっぱなしな気がするな、と思いながら、俺はコートを取るべく、立ち上がった。

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