第5話 筒抜けかもしれない
それからさらに10分ほど並び、チキンを手に入れた俺たちは、いつも通りに俺の部屋へと帰宅した。
机の上には、先ほど買ったチキンが。ケーキは冷蔵庫へと放り込まれた。
「メリークリスマス、です!」
「おう、メリクリ」
「……なんかテンション低くないですか?」
「別に、いつも通りだぞ?」
イベント大好きテンション高めの雨空に対し、俺は普段と変わらない。
「そんなことないですよ。ちょっと低いです」
「多分、お前が高いから相対的に低く見えてるだけだ」
「例えそうだったとしても、低いのに違いはありません! さあ、テンション上げてください!」
「そうは言われてもな……」
よく考えたら、俺はこれまで家族以外とクリスマスパーティー的なことをしたことがない。誘う友達はことごとく彼女がいたからな! ……悲しい。
まあ、そんなわけで、俺はテンションがよくわからないのだ。結果、家族と過ごしていたときと同じテンションになっている。
それを雨空に伝える。すると、ひとつため息をついた。
「はあ……。先輩、難しく考えすぎです。楽しければオッケー、です」
「うわあ、アホっぽい」
「楽しむためのイベントを楽しんだらアホ扱いですか!?」
「いや、クリスマスはそういう楽しむ系のイベントじゃないはずだろ……本当は」
あんまりよくは知らないが、人によってはとても大切な日なのだと聞いている。それに乗っかって商売やらなんやらと行っているのが部外者の我々である。毎年チキンとケーキを食べさせていただきありがとうございます。
「現代日本では楽しむためのものです! ……まあ、先輩もテンションが嫌でも上がること間違いなしです」
「その自信はどこから来てるんだ……」
「経験です。さあ、冷める前に食べましょう」
そう言って、雨空が箱を開ける。漏れ出ていた肉の香りがさらに強くなる。
いただきます、と呟いて、ひとつチキンを手にとり口に運ぶ。
「うま。やっぱりクリスマスといえばチキンだな」
肉汁と、スパイシーな感じが最高だ。美味い。
食べ続けていると、視線を感じて顔を上げる。正面で、雨空がなぜかニヤニヤしていた。
「……なんだよ」
「いえ、わたしの言った通りだったなあ、と」
「……?」
意味がよくわからず、首を傾げながら表情で続きを促す。
「先輩は気付いてないみたいですけど、声のトーン上がってますよ。やっぱりテンション上がりましたね」
「……そうか?」
「はい。絶対、チキンを食べたらそうなると思ってました」
どや、と胸を張る雨空。
「……ちなみに、その確信の根拠は?」
「先輩がこだわっているということは、なんだかんだ言って楽しみにしているってことですからね」
「……」
……当たっている。
沈黙を肯定と受け取ったのか、それとも感じ取ったのか、雨空はさらに、どやどやしていた。やけに自慢げだ。
これでは、隠し事も出来たものではない。……それは普通に恐ろしいな……。
ということは、今の俺の葛藤にも気付いているのだろうか。
そんな疑問を、無理矢理チキンと共に流し込む。
……こんなことを考えていても、美味いものは美味いなあ……。
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