第4話 冬服くじ

昼食をカフェの軽食で済ませ、3限以降の各々の講義を終えた俺たちは、いつも通りにポロアパートの1室である俺の部屋へと集まっている。


その部屋には、段ボールが散乱していた。


「……わからねえ」


段ボールに囲まれつつ、俺は頭を抱える。


「なんで段ボールに書いておかないんですか……」


雨空が、手近な段ボールを開けては閉めている。


起こった事は単純だ。


冬服へと衣替えをするべく、俺は帰宅後に、この部屋唯一の収納スペースである押し入れから冬服の入った段ボールを出そうとした。


似たような段ボールばかりで、外側に何を入れているか書いていなかったこともあり、冬服がどれに入っているのかわからなかったのだ。


そして現在、しらみつぶしに段ボールを開けて、中身を確認しているのだが。


「俺、こんなに物持ってたか……?」


この量の段ボールがいっぱいになるような買い物をした覚えはない。貰った覚えもないし、となれば勝手に増えていることになるのだが……。


不可解なことに、開けて出てくるものには見覚えがあるのだ。いやはや謎である。


「いったい誰がこんなに買い込んだんだ」


「先輩に決まってるじゃないですか」


「だよなあ……」


この箱は、話題になっていたから買ったものの、結局読まなかった本と使い終わった教科書類。隣の箱は、なぜか律儀に残されているドライヤーなどの小物家電の箱。その隣は──と、中身の一貫性はなく、ひとつずつ見ていくのはキリがない。


「年末に1回整理するしかねえな」


大掃除に今からげんなりしながら、隣の箱を開ける。


すると、中にはお目当てのものが入っていた。


「あ、これだ。あともうひとつあると思うんだが──」


「これじゃないですか?」


そう言って、雨空が見せてくるのは紛れもなく俺の冬服だ。


「お、それだ。とりあえず、これで発見はできたな」


「そうですね。衣替えどころじゃない部屋の散らかりようですけど」


「……まあ、それは仕方ない。とりあえず今日は片付ける」


「じゃあ先輩にお任せしますね」


そう言って、雨空は立ち上がり、スカートをはたく。


「えっ」


手伝ってくれるのだろうと思い込んでいた俺は、思わず声を漏らす。


「手伝いたいのは山々ですが、時間が時間なので」


ぴっ、と指差す雨空。その指先は、時計を向いている。


時刻は19時4分。


なるほど、夕飯の支度か。なら仕方がない。


「それじゃあ先輩、夕飯までに片付けておいてくださいね」


そう言い残して、雨空は台所へと向かった。


「……やるか」


俺はひとり、黙々と段ボールを押し入れへと放り込む作業をはじめた。

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