第3話 夏の一大イベントを
「先輩、今日の夜暇ですか?」
そうめんを食べ終わったあと。涼みながらスマホを見ていると、雨空がそんなことを聞いてきた。
「いつも通りだな」
「つまり暇なわけですね」
「……そうだが」
「じゃあ先輩、今夜はわたしに付き合ってください」
「なんだ? どっか行くのか?」
雨空がこんな言い方をするのは珍しい。気になった俺が問いかけると、雨空は口角を上げ、びしり、と人差し指をたてる。
「お祭りです!」
「祭り?」
「はい。今日はこの辺りのお祭りらしいので、それに行きたいな、と」
「そういえばこの時期だったか」
昨年の夏に、俺も行った覚えがある。大学一回生だった俺は、下宿生ということもありとにかくこの辺りのイベントすべてに顔を出していたのだ。大体ひとりだったが。
「というわけなので、一緒に行きませんか?」
「まあいいけど。……結構人多いからそれだけは覚悟しとけよ」
「らしいですね。まあ大学の近くですし、当然といえば当然ですけど」
「いるのもほとんど大学生だからなあ……。そういえば、祭りと一緒に花火大会もなかったか?」
昨年は祭りと共に花火大会も行われていた。人混みの中で、花火の端っこだけを見ていたことが思い出される。
「あるみたいですね。そっちも見たいです!」
「期待してるところ悪いが、人混みが凄すぎて見えないぞ」
「ええー、そうなんですか? ……というか先輩、行ったことあるんですか?」
「一回生のときに、な。ひとりでどんなもんか見に行こうと思って。結局ほとんど見えなくて音だけ聞いてた」
「うわあ……。どこかに穴場とかないですかね?」
「大学の講義室に侵入すると見えるらしいぞ。バレたらめちゃくちゃ怒られるらしいけど。あと実はほとんどの講義室に大学生が侵入してるらしい」
「無法地帯……。ここは……見えないですし……」
雨空の部屋は、特徴的な六角形の形をしたマンションの一室だ。しかも、その外周ではなく対角線上に部屋があるため、ベランダも外には面していない。
「先輩の部屋から見えたりしません?」
「どうだろうな……。方向的には見えるかもしれねえけど、高さが足りないかもな」
「あー、それはありますね」
俺の部屋は、雨空のマンションから道を挟んだ隣にあるポロアパートの二階の一室だ。角度がうまく合えば見えるだろうが、それは見てみないことにはわからない。
「ま、最悪音だけ楽しむか講義室に侵入するか」
「さすがに侵入は見つかったときが怖いので音だけにしましょう」
「その方がいいな。俺も怒られるのは嫌だし。じゃあとりあえず、祭りが始まるまではしばらくこのままだな」
「そうですね、暇なので先輩の帰省したときの話でも聞かせてください」
「別に何も面白いことねえぞ? 強いて言うなら親父がカエル捕まえるのにハマってたくらいだな」
「なんですかその話!?」
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