第58話 おやっさんの過去

俺は、冒険者ギルドを出ると裏に回って、解体所に顔を出した。


「おやっさ~ん!」

おやっさんを呼ぶ。


「おう、ユウマお早う。どうした?」

奥から手を拭きながら、現れるおやっさん。


「実は近々この都市を出る事になると思っているので、世話になったおやっさんに挨拶に来ました」


「随分急な話だなぁ。俺で良ければ相談に乗るから、事情を話してくれないか?」


「は、はぁ」


解体所の一画にある椅子に座るよう促されて、椅子に腰を掛けておやっさんと向かい合う。


おやっさんが入れてくれたお茶を飲みながら、昨日の事からさっきの冒険者ギルドの事を、おやっさんに話した。


「成る程、事情は分かった。ユウマの気持ちも分かるし、ギルド長のソウマの事も分かるよ。ユウマが怒る気持ちはもっともだ。実は俺とソウマは、現役時代パーティーを組んでたんだ」


「へぇ~」


「ソウマは悪い奴じゃ無いんだ。出来れば許してやって欲しい。ユウマの実力を高く評価しているから、都市を守る為、一番効率の良い解決方法として、ユウマにキラーデュラハーンの討伐をお願いしたんだろうね」


「まあ、それは分からないでも無いですけど・・・」


「けして悪気があった訳じゃ無いと思うし、騎士団から金銭を受け取る様な奴じゃない。精々、『ダンジョン攻略者に任せたらどうだ?』と思考誘導された程度だと思う」


「ふ~ん」


「俺達が現役の頃は、英雄と呼ばれたSランク冒険者のヒナタさんに憧れててなぁ。ヒナタさんは美しい女性だったらしいよ」


「へぇ、そうだったんですか」

ヒナタさんって女性だったんだ。


「おお!そうだワン。ヒナタはモテてたワン」


「ヒナタさんの眷族だったクロドを、連れているユウマと英雄ヒナタさんが重なったのだろうね。きっと都市の危機に颯爽と現れて、解決してくれる英雄に期待したんだ」


「なんか俺が、心の狭い男の様じゃ無いですかぁ。断らない方が良かったかなぁ」


「いやいや、ユウマの選択は正しいと思うよ。背景を考えないで何でも救えば、悪い奴らに利用される事もあるだろうしね。リュウセイに調査を頼んだのも正解だ。奴ならしっかりやり遂げるだろう」


「おやっさんはリュウセイさんと、仲が良いんですか?」


「ああ、俺の現役時代の職業は探索者シーカーでな。リュウセイは俺の弟子だよ。リュウセイをソウマに紹介したのも俺さ」


「ええ!そうだったんですね」


「うん。俺の方でも騎士団とシミツコ商会と蜘蛛の牙について、情報を集めておくよ」


「いやいや、それは申し訳無いので、お断りしますよ」


「ははは、俺もユウマに肉の借りがあるからね。報酬は要らんよ」


「はぁ、無理はしないでください」

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