11話
それでも心のどこか自分でも知らない場所で鈴は思い続ける。
誰でもいい、私を見て。
誰か、私の声を聞いて。
私は本当の私は違う。
「言わないなんて本当に馬鹿だわ」
ぼんやりと自分の中でぐるぐる廻る気持ちの中に居た鈴は、小さく呟く声に我に返る。声は企むような短い含み笑いをして鈴に言った。
「これからは私が鈴の代わりに鈴ができなかったことを何でもやってあげる」
一体何を言い出したのだろうと思った鈴が首を傾げて怪訝な表情を浮かべていれば、声は「まだ気付いてないの? 」と大きく一笑する。
(気付いていない? どういうこと?)
そう言った自分の声が空気を震わすことなく、自分の中で反響していることに気付き、鈴は初めて自分が体を動かしていないことに気付いた。
辺りを見回してみればそこはなんだか暗い場所。
その場所に自分という物は存在し手足を動かしているけれど、その動きは肝心な本体に伝わっていない。
そう、大きなロボットの操縦席にいながらも、ロボットを動かしているのは別の人、そんな状況だった。
ただ驚き、必死で暗い場所から出ようと出口を探してみるが、出口どころかどこから入ってきたのかもわからない。
焦りを見せる鈴に、跳ねる様に楽しげな声の笑いが聞こえてくる。
「やっと気付いたみたいね。本当に鈴って馬鹿だわ。自分の事すらまるで分ってないんだもの」
楽しげな声に機嫌悪く、声が聞こえてくる暗闇に向かって鈴は鋭い視線を向けて静かに低い声を出した。
(私の体でしょ、返してよ)
「それは出来ない相談ね」
声は間髪入れずにあっさりと拒否の態度を取る。
返してと言って嫌だと言うならまだしも、出来ない相談とは鈴には全く意味が分からない。
何よりこの体は正体不明の声のものでは無いはず。なのに出来ないとはどういうことなのかとさらに機嫌を悪くした。
(出来ないってどういうこと、取ったのだから返すことはできるでしょう。それに貴女は一体誰なの?)
鈴が言えば声は唇の端を引き上げて不気味に微笑み「私は、貴女。鈴よ」とますます理解不能な答えを返してきた。
「出来ない理由は簡単。鈴が私を見つけていないから。鈴が私を見つけてくれるまで私は鈴であり続けるわ」
(貴女を見つけるってどういう意味? 何をしろっていうの?)
鈴の質問に声は今までの嘲りや企むような笑いを静かに引っ込めて、寂しそうな溜息を漏らし更に続ける。
「本当に全然わかっていないのね」
そう言われても鈴には全ての出来事が理解できない状況。
何を分かれと言うのだと唇を歪ませ不快感をあらわにした瞬間、胸の辺りが針で刺されたように痛み、薄暗い灰色の世界にふわりふわりとほんのりとした水色の球体が姿を表した。
(悲しんでいるの?)
別に自分が悪い事をしたわけではないのに、なんだか釈然としない気持ちのまま鈴が周りに現れた水色の気配に触れようとすれば、それはあっという間に消えてなくなる。
それと同時に声は再び嘲りの気配で笑いながら鈴に言葉をかけた。
「少しだけヒントを上げる」
(ヒント?)
「そう、私が何者かっていう事」
先ほど、誰かと聞けば声は鈴だと言った。
そして今度は自分が何者かを教えると言う。
声の説明は何処か回りくどく、何を言いたいのかその本質が全く読めないことに鈴は呆れにも似た溜息を吐き出した。
(さっき誰かと聞けば貴女は私だと言ったじゃない。それ以外にも何かあるっていうの?)
「私が鈴であるのに変わりは無い。ただ、それだと鈴が単なる二重人格って話になっちゃうでしょ? でもそれは違うっていうことは鈴がよく分かっている。だからヒント。私は仮面、鈴の仮面よ」
仮面、そう言われて鈴は考え込む。
仮面という言葉に何処か引っかかるような気がするが、それが何なのかは分からない。
そして仮面と言えば、思い浮かぶのは縁日などのお面。そういう物がこうして話し、自分と入れ替わるなどありえるのだろうかと首をひねった。
(仮面って、何なの?)
考えても答えが出てこないことにヒントをくれた本人に聞いてみれば、声は首を横に振る。
「それは鈴が見つける答え。私が解答することじゃないわ」
(ヒントなんて言いながら、ヒントに使われている言葉の意味が分からないんじゃ何が何だか分かるはずがないじゃない)
文句を言ってみるが、声は鈴の体を動かし宿題をすることなくベッドに横になった。
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